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窓際にて
今、私は二階の喫茶店の窓際にいる。
喫茶店、図書館、眼科の待合室、飛行機、家のリビング。
わりとどんな場所にいても窓際に座りがちである。まぁきっと大体の人がそうであろうが。
二階の席の全部の窓が開いていた。
風が時折り、流暢に通り過ぎ、陽もだんだんと落ちていき、いい時間が流れていた。
風の運びと同じく、鳥も運ばれてきた。
1羽のグレーの鳩が左端から順々に窓際を器用に歩き始めた。
『嗚呼、お願いですから私の前では立ち止まらないで下さい。そして、私の窓へは入って来ないで下さい。』
とても丁寧にとても強く願った。
隣の席のカップルは、鳩が可愛いだの、こっちに来て欲しいだの愉快に鳩を受け入れていた。
反対側の隣の男性は何度も何度もカメラのシャッターを切り、鳩を静かに心に刻んでいた。
私はどうしてこの鳩を受け入れることが出来ないくらい臆病なのだろう。
この1羽の鳩が、私の窓の前で立ち止まり、私の食べかけのフレンチトーストを食べたいと言わんばかりの丸々とした目で見つめてきて、鳩を愛しく思った私は食べかけのフレンチトーストを小さくちぎり鳩に差し出すことが出来たら、私は幸福感に包まれ、鳩は私に御礼を言うかの様に美しい羽を大きく羽ばたかせ高く高く青空へ舞い上がり、喫茶店にいる人々からスタンディングオベーションでももらうことが出来るのだろうか。
私にはこんな想像しか出来ないほど、鳩へのファンタジーが足りていなかった。
気がつくと、鳩は隣のカップルの席まで近づいて来ていた。
そう、今ここでこの二人を幸福に包んでくれ。
鳩は足早に通り過ぎた。
そして、私の窓。
フレンチトーストを狙われない様に、フォークとナイフをフレンチトーストの上に積み上げた。
どうか危険な食べ物だと思ってくれ。
一瞬、鳩はフレンチトーストを見た気がしたが何事もなかったかの様に普通に歩いて行った。
右の端まで到達した鳩は、とても地味に地面に下りて行った。
よからぬ事を考えすぎては疲れ、ロマンを求めてはわりと普通で、私が想像する大体のことは決まって想像通りと反対になる。何も想像しなかった突然の出来事の方が、よりドラマティックでよりファンタジックな出来事が起こる。