母の姿をした怪物
子ども部屋おじさんはほとほとに困り果てた。母に巣食った怪物に。
母が夜の散歩から帰ってこなかった。23時ごろ地元の警察署から母を保護しているとスマホに連絡が来た。タクシーで警察署に迎えに行った。こどおじは錯乱気味で警察官にこどおじを逮捕してくれと頼んだ。警察官はまだ何もしてないでしょとツッコんだ。さらに役所の介護福祉の部署に相談したほうがよいと助言した。再びタクシーを呼び帰宅した。負の実績ができたのはよいことだと自分に言い聞かせた。
なんとか有給を申請し、役所に向かった。医師の診断と母の銀行口座の把握の2点の目標に動けと指針を受けた。母の銀行口座のカードと通帳を再発行し、こどおじが管理することになった。そして病院でアルツハイマー病と診断された。アルツハイマー病の進行を遅らせる薬などを処方された。薬の管理もこどおじがすることになった。薬の管理で趣味の旅行は断念した。機嫌の管理が厳しくなった。
こどおじが労働に勤しむ中、スマホが鳴った。母はふるえが止まらないと救急隊を呼び出した。駆け付けた救急隊員からの連絡だった。救急隊が来たら、ふるえが止まったようで救急隊に帰ってもらった。こどおじは仕事場の人に詫びを入れて早退した。病院に連れていき、アルツハイマー病の症状にふるえがあり、心配からそうなることもあると聞いた。病院の待ち時間に母に「お前が生きるために息子の仕事を奪い、経済的に死なせるつもりか」と詰った。母は泣いた。こどおじは手の人曰く「女の涙は脱糞だ」と思い出した。コロコロしたい意思の中、妙に冷めていく感覚があった。病院から帰宅し、時間があったので地域の介護福祉センターに連絡しケアマネージャーと相談した。状況を伝えたら、大変同情された。こどおじは疲労に沈んだ。
認知症の病院を紹介された。しかし病床が空いてなく、空き次第の入院となる予定となった。それまで役所と病院へ行き、限度額認定証の発行と介護面談のための問診票を提出した。現状やれる限りは手を打った。しかしこどおじの体調は悪化し始めた。2度休職のきっかけとなったうつ病が再々発し始めていた。
ある日残業が終わる頃、強い倦怠感で身体が動けなくなった。壁により掛かり動けるまで10分以上かかった。意思を脳に届け、脳が体を動かす司令を上手く出せなくなってきた。母を怪物ごと封印できる病院のベッドが空くまで、ポンコツに付き合うしかなかった。母を生活から切り離すことができない限り、休職しても意味はなかった。倒れるときは前向きに負の実績を稼ごうと覚悟を決めた。
たぶん旅行の代金になります。