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本能
誰なのかわからなくなるくらい。
欲求に従って沈んで沈んで、もっと深く。
私は片足だけ失くした靴を捜しに、車を走らせるよ。
安い布団をぐしゃぐしゃに歪ませて、何処へでも行こうとする。
誰なのかわからなくなるくらい。
欲求に従って眠って眠って、泥みたいに。
私は両腕を広げて明日を求めている、
美しくもない命を誇りながら。
短い夜の間にできることなんてどれくらいだと思う?
大したこともできないで、きっと命なんて閉じてしまうわ。
咲いては枯れて茂っては朽ちて、
あの花や樹々は本能に流されて一瞬だった。
限られた日の当たる場所にどうやって取り入ろうか?
汚れ傷付けられながら、きっと内緒のことなんて山程あるわ。
つくっては壊して生まれては死んで、
本能に流されるのは私達だって同じことなのに。
お高くとまっているんじゃねえぞ。
腹の中はみんな泥のようでいるくせに、
お高くとまっているんじゃねえぞ。
欲に塗れるのは同じことだろうよ。
お高くとまっているんじゃねえぞ。
我こそは誰様だなんて思っているの?
お高くとまっているんじゃねえぞ、
勘違いして生きるんじゃねえぞ。
その内、天から罰が下る。
誰なのかわからなくなるくらい。
欲求に従って沈んで沈んで、もっと深く。
私は、貴方は、あの子は、誰かも。
誰なのかわからなくなるくらい、
誰なのかわからなくなるくらい泥々に溶かして。
忙しくしている間にあの花は枯れてしまった。
音もなく蕾が開いては、最後まで音もなく居なくなって。
そうやっていつか、染み付いた匂いまで攫って目の前から。
私はそれでもずっとそばにいることはできないようだから。
忙しくしている間にあの人は痛がっていたようだ。
気付いた時には淋しがったずっと後なんだ。
こちらに向ける笑顔の意味なんて少しも汲み取れないものなのかな。
誰の為に生きてみれば、
誰も私も傷付けないで孤独にしないで、
死んでいけるって説いてくれるの?
お高くとまっているんじゃねえぞ。
腹の中はみんな泥のようでいるくせに、
お高くとまっているんじゃねえぞ。
欲に塗れるのは同じことだろうよ。
お高くとまっているんじゃねえぞ。
我こそは誰様だなんて思っているの?
お高くとまっているんじゃねえぞ、
勘違いして生きるんじゃねえぞ。
お高くとまっているんじゃねえぞ。
だけど下を見ては進んでいけなくて、
お高くとまっているんじゃねえぞ。
欲を汲み取らねば発展なんてできなくて、
お高くとまっているんじゃねえぞ。
我こそは誰なのだと唱えれば許してもらえるの?
お高くとまっているんじゃねえぞ、
けれども下を見て立ち止まるんじゃねえぞ。
天から罰が下る前に、
天から罰が下る前に。
「気付いているよ」と返さないと、
「気付いているけど上手くいかない」と示さないと、
「あきらめてはいない」と返さないと、
「償うこと忘れているわけじゃない」と、
白
状
し
な
い
と
。
枯れた、花の匂いが、狭い部屋に充満して、そのまま全部、都合の悪いことだけ土に還ればいいのに。
そんな風に子どもじみたこと、飽きもせず想像しながら、
真っ白い カミ の前で。
誰なのかわからなくなるくらい。
欲求に従って沈んで沈んで、もっと深く。
私は片足だけ失くした靴を捜しに、車を走らせるよ。
安い布団を歪ませて、泥々に溶かしながら。
誰なのかわからなくなるくらい。
欲求に従って眠って眠って。
獣みたい。
私は両腕を広げて明日を求めている、
いつか朽ちてしまう命誇りながら。
(2018.04.17)
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