保健室メイト【2000字の日常】
平日朝から真っ白なお布団に包まれてぬくぬくできるだなんて、最・高!
ああ、なんて癒し空間なの、保健室って……。
「ほんとに仮病じゃないの?」
なんて養護の先生が怪訝な顔をしてもへっちゃら。
「違う!寝不足なの!!ん〜いい気持ち♫」
なんて言いながらむにゃむにゃまどろむ、この瞬間がたまらないっ!
保健室には4台ベッドがあって、それぞれがカーテンで仕切られている。
誰かいると閉めるんだけど、今日はどこも空室だったようで全部開け放たれていた。
今日はどうしても気分が乗らなかったので1時間目からサボって、こうしてベッドでゴロゴロ。もちろん、ある程度の出席がないと単位認定試験を受けすらできないんだけど、授業内の5秒でも顔を出せば出席扱いになるザル制度なお陰で初っ端でばっくれてお布団と戯れることができちゃうのだ。 ボクは成績も悪くないから誰も咎めないし。
それに、マジで寝不足なんだ。だって、、
なんて考えていると、保健室のドアが開く音がした。
「失礼、、します。。。。」
明らかに体調の悪そうな声だ。しかも、ボクはこの声を聞くのが初めてではない。
「あらあら、顔色が悪いわね、ちょっと休んでいきなさい?」
「ありがとうございます。。。」
「熱は、、なさそうね。朝ご飯は食べてる?」
なんてやりとりが聞こえてくる。
この子はボクと同学年の土居さんだ。レイちゃん、だったっけ。
クラスが一緒になったことがないので詳しいことはわからないが、細いし小さいし、いつも眠そう。控えめな印象で、誰かとご飯を食べているところすら見たことがない。
彼女のためにこの学校の保健室はあると言っても過言ではないかもしれない。
名前的にボクと出席番号が近いはずだから、同じクラスになったらなんか挨拶されるのかな、、?それもそれで面倒な話だ。
あ、こっちに来る。寝たふりをしなきゃ。
ボクが静かにしていると、彼女はカーテンの外、ボクの足元をふらふらと歩きつつ、なんとか二つ隣のベッドに倒れ込んだようだ。
ちょうどそのくらいで、1時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
途端に保健室の外が賑やかになって、ボクたちは世界から切り離される。
数学で、確率的にあまり起きない事象を外れ値って言うんだって。
なら、土居さんも、そして、ボクも、外れ値だ。
そこそこの進学校で、入学までみんな同じような教育を受けてきてるはずなのに、ボクは、みんなみたいにはなれなかった。
土居さんとボクだって、多分、同じ状況じゃないけど、でも、どっちもこうして保健室の常連である以上は、みんなと同じになれなかった存在だ。
2時間目の始まりを告げるチャイムが鳴る。
廊下を走る音、それを咎める先生の声、それらも数分で消えて、世界は、再び静寂で統一される。
はずだったが。
保健室のドアが開いた途端に、元気のいい声が聞こえてきた。
「おじゃましま〜っす!」
ああ、また来たか、うるさいの。。
ボクは、やれやれと頭から布団をかぶる。
彼女は遠藤さん。一つ学年が上の先輩だ。自分のことを「みぃ」と名乗っている、メルヘンの住人系カシマシさんだ。そして彼女も、保健室の常連だ。ボクがいて見かけなかったことがないくらいだ。
「みぃ疲れた〜〜! ねね、センセ! 聞いてよ、あのね、この前教えてもらったお話、とっても面白かったの! でね、みぃはそれを読んで、、」
ああ、始まった。彼女はこうなると止まらないタチなのだ。
遠藤さんから醸し出される、保健室らしからぬ雰囲気。
面倒だから、寝たふり続行。
土居さんも、なんだか寝づらそうにもぞもぞしている。
はあ。。
遠藤さんも、一見体調はどこも悪くなさそうだが、きっと何かを抱えている。
だって、何かしら理由がなければ保健室になんて入り浸らないし。
それは、ボクだって、きっと土居さんだって、一緒だ。
ボクも、たまに、みんなみたいな生活ができる世界線を夢見る。
学校に遅刻せずに登校して、クラスで授業を受けて、放課後は部活したり、友達とおやつ食べに行ったり、日がくれるまで好き勝手のんびりして、家に帰って夕飯食べて、勉強ちょっとだけして、眠くなるまでゲームする。
「日常」過ごしてみたかったな。。
そんなことを思うと、なんだか泣けてくる。
ボクには、同じ日常を願うことすら許されないのかもな。
ちょっとおセンチな気持ちのところで、養護の先生にカーテンをはがされる。
「堂本さん!いい加減起きなさい、2時間目始まってるわよ」
「わかってる、、、。」
うるさいなあ。
「ホント、なんともなさそうだし、さっさと授業戻りなさい?」
「……はーい。」
大人はみんなわからない。
ボクが、ボクたちが何を抱えて、何を願っているかなんて、ちっともわからないんだ。
髪の毛を整え、ボクは気怠げにベッドから立ち上がった。
最後まで読んでいただきありがとうございます! こんな感じでちょっとズレた記事を掲載していく所存ですので、気に入ってくださったらぜひスキ・サポートのほどいただけますと励みになります!