1on1で相手からテーマが出てこないとき
前回は、地方自治体の職場で、係員との1on1を導入して実感した効果や、見えた課題について書きました。
今回は、その課題のなかの「テーマ設定」の仕方で工夫したことがるので、そのことについて書きます。
1on1のテーマは誰が決める?
1on1で話すテーマは、1on1ごとの目的によって様々です。僕の場合は「今の仕事以外の話をすることで、メンバーとお互いの信頼関係を構築していきたい」と考えていました。この目的は自分が決めましたが、具体的に話すテーマは、テーマは相手に決めてもらうことにしました。なぜかというと、「1on1は部下のための時間」にしたいと思っていたからです。
しかし、「今日は何か話したいことはありますか?」と投げかけても、相手から「今日はこのテーマで話したい」というものがなかなかありませんでした。一応、そういう場合に備えて自分でもテーマの副案を用意しておいたのでミーティング自体はできたのですが、どうしても目の前の仕事の相談になりがちで、自席で話す内容とあまり変わらないコミュニケーショに終始してしまいました。
テーマ選びは枠組みが必要
しかし当初は狙い通りにいかず、「今日は何か話したいことはありますか?」と投げかけるだけでは、相手から「目の前の仕事以外」のテーマがなかなか出てきませんでした。
これは、自分の職場環境を考えると当然といえば当然のことでした。
理由の一つは、業務時間内に目の前の仕事を離れて話すという経験がないということ。自分と部下の日頃のコミュニケーションは、業務時間は当然、目の前の業務の話が中心です。仕事以外のプライベートもしなくはないですが、それは業務時間外の場面です。この中間のコミュニケーションの習慣というのがそもそもなかったのです。
理由の二つ目は、公務員という仕事の特性によるものです。公務員の事務職は一般的に異動の頻度が高く、また異動する部署の分野の幅がとても広いです。税の部署で働いていたと思ったら、次は観光の部署、市の動物園や水道の施設で働くということもあります。このような環境の中では、そもそもどういうキャリアを歩みたいかなど、中期的なキャリアのビジョンなどを描きにくいということがあります。
「相手がテーマを決めやすくなるための働きかけが何か必要だな」と思い、どんなアプローチができるか考え始めました。
「ワーク・ライフ」×「過去・未来」
自分のなかで閃いたのは、「ワーク・ライフ」軸と、「過去・未来」軸という二軸を縦横に置いた4象限を相手に提示して、その中から気になったゾーンを選んでもらい、そこから具体的なイメージやエピソードを聞いていくというものです。
この閃きのヒントになったのは、次の二つです。
ライフ×ワーク×セルフの重なり(『キャリア1on1』)
ライフラインチャート
「ライフ×ワーク×セルフ」の重なるところを目指すというのは『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』という本で提唱されていることです。著者の池原 真佐子さんは、人のキャリアというのは、ワーク(仕事)だけでなくライフ(生活)も土台となるものであると本の中で紹介していて、これに、自分のこれまでの人生を幸福度という尺度で1本の曲線で表現した自己分析の手法であるライフラインチャートの要素を掛け合わせることで、目の前の仕事を離れた視野を手に入れて、1on1のテーマを考えられるのではないかと思いました。
効果は的面
早速、このシートを使ってテーマを決めてもらうことを予め伝えておいて、1on1に臨んでもらいました。すると、相手がテーマをスムーズに決めて、対話を始めることができたのです。
このシートを使う前のミーティングのはじまりはこんな感じでした。
これでは、自分がテーマを絞り込んでいて、相手が選択権を持っているという状態ではありません。
こんな始まり方だったのが、二軸のシートを使ったら、こんなふうにミーティングの始まりが変わりました。
ここまで会話が走り出せば、あとは質問で深堀したり広げたりしていけるので、ミーティングの始まり方としては上々だと思います。以降、毎回1on1ではこの二軸の表をメンバーと見ながら、その日のテーマを決めてミーティングを始めています。
今回は、1on1で相手がテーマを決められないときに、私が試してみた枠組みについて書きました。