赤の他人の成長物語
叱られている人を見るのがつらい。
まあ、好きな人もいまいが。
お店など、お客から丸見えなところで、上司・先輩が部下・後輩を叱責している場面に遭遇することがある。他の人に丸見えなところで、なぜ? 叱る方は「自分はこんなに部下(後輩)叱ってやってるぞ!」と他人へアピールをして悦に入ってるのかもしれないが、そんなものを見せられるほうはたまったものではない。ましてや、叱られている本人の気持ちを考えるといたたまれなくなり、心臓がぎゅーとなる。
昨年の秋頃だったか、職場の近くの郵便局に新しい女性局員が入った。年の頃なら50代半ばといったところだろうか、白髪混じりのボサボサの長い髪をひっつめ、目には赤めのアイシャドウを施し、胸には「研修中」のバッジをつけている。失礼ながら、見るからにくたびれたおばさんだ。赤いアイシャドウが印象的なので、以下、その人を「レッドシャドウ」と呼ぶ。
レッドシャドウは、物腰が柔らかく、接客態度は上々だ。先輩の指導もちゃんとメモを取って聞いている。だが、どんくさい。郵便局で働くのは初めてだろうから、わからないことが多くて当然。まごまごしたり、先輩に聞かないといけないこともあるだろう。だが、どんくさい。切手出すのにどんだけかかってんのよ、アンタ。とは思うが、腹が立つというほどではない。
レッドシャドウのお目付け役らしきお姉さまが、常にレッドシャドウの背後で目を光らせている。お目付け役はおそらくレッドシャドウよりは年下で、ショートカットで動作も素早く、いかにもデキる女と見える。レッドシャドウが何かミスると「これ前にも言いましたよね?」と、お客の面前でもお構いなしに詰める。見ているこちらがハラハラする。お客がいる前でもこうなのだから、お客がいないとさらに詰められているのだろうと容易に想像が働いて、さらにつらい。
レッドシャドウが働き初めて3ヶ月ほど経った頃からは、ある程度早く動けるようになり、仕事に慣れてきたようだった。
そんなある日、窓口で客待ちをしているレッドシャドウの後ろで、
お目付け役「いや、私は◇◇するよう、〇〇(レッドシャドウ)さんに言いましたから」
男性上司「あー、そう」
お目付け役「〇〇さん、前も間違ってたんですよ」
男性上司「まあまあ」
と、レッドシャドウの愚痴を言うお目付け役を、上司がなだめている場面に出くわした。ただうつむくだけのレッドシャドウ。
伊勢崎の脳内で流れ出す中森明菜の『セカンド・ラブ』
(※歌詞をご確認ください)。
あーもーーーやめてくれ!やるなら見えないとこでやってよ!男性上司がお目付け役と一緒になって叱らないのが救いではあるが、レッドシャドウをそんな叱らないでやっとくれ。レッドシャドウもつらいけどこっちもつらいんや。
このように、局員同士のやり取りが全部お客に丸見え・丸聞こえなのである。楽しげなやりとりであればいいが、誰かが叱られているところを見るのは本当につらい。
そんなこんなで半年以上が過ぎ、最近、レッドシャドウの研修中のバッジが取れ、また新たな研修中バッジをつけた新入り局員が入った。
そして昨日、レッドシャドウが新入りに指導する場面を目撃した。レッドシャドウはまだ自分が駆け出し局員であるという自覚があるのか、とても優しく指導している。そんなレッドシャドウを見て、思わず胸が熱くなった。「アンタ、お目付け役のしごきに耐えてよく頑張ったね。この郵便局、新入りがすぐ辞めちゃうみたいだけど、これからも頑張ってよ。そのうち、郵便業務だけじゃなく、貯金関係の仕事も覚えられたらいいね。」などと思いながら、還暦を控え、なおも新しい仕事の門を叩いたレッドシャドウをこれからも見守って、ひっそりと応援していくと誓った。
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