見出し画像

【2023年の昇給|前編】2024年の人件費予算の上昇率は4.0%、Accounting Administratorは0.9%増?!

年末が近づくにつれ、多くの企業では評価や昇給に関する準備が始まり、またその方面に多くの労力と時間が費やされるかと思いますが、皆さまの所ではどの様に取り組まれていますでしょうか。
特に、昇給はリテンションやモチベーションに直結する要素の一つであり、より入念な準備が求められ、具体的な数字や指標に関する情報収集が必須とも考えられます。

その様な中、収集される情報としては「アメリカの調査会社が出している数字」が挙げられます。例えば、「翌年度の人権費予算の増加率」という数字が毎年この時期に発表されており、傾向としては2021年までは10年以上3.0%程度の増加といった水準が続いていたものの、2024年の予想は4.0%増*¹となっており、過去20年を振り返って最も高いレベルの水準となっています。*¹ WorldatWorkを参照

一方で、ポジションごとの給与に関する増加傾向はそれぞれで、例えばAccounting Administratorの昨年対比が0.9%増*²である事に対し、Human Resource Administratorは6.6%増*²となっており、ポジションによって昇給幅は大きく異なるという事を認識しなくてはなりません。*² ERIを用いた弊社独自の情報

そこで、今回は「適正な昇給」の考え方について解説します。


1. 在米日系社会に広まっている都市伝説 (=よくある間違い)

昇給に関して、「毎年の昇給は3%増にするべき」あるいは「昇給は消費者物価指数に応じて上げるべき」などといった様な話を耳にした事はありますでしょうか。それは、昔から在米日系社会でまことしやかにささやかれていましたが、実はそれは事実とは異なります。

毎年3%程度上昇してきたのは、冒頭にも挙げさせていただいた「翌年度の人件費予算の増加率」なのですが、同時に消費者物価指数も3%前後で推移してきたため、その様な誤認に繋がったとも考えらます。つまり、その3%という数字が「個人の昇給率」だったという事ではありません。また、最近でも「来年の昇給率は〇%になる」などと、一定の割合で昇給させれば良いといった様な論調を耳にしますが、これもアメリカの一般的な昇給の考え方とは異なります

では何が正しいのかと言いますと、個人の昇給率は「評価結果と市場給与相場との乖離(Compa-Ratio)」によって決まる場合が多いとされています。
ただし、この「翌年度の人件費予算の増加率」は、人件費が高騰してしまった際にリストラで是正するなど、解雇が組み込まれた雇用形態が前提となる「アメリカの一般的な雇用主のデータ」になるため、解雇によって人件費を是正する文化がない雇用主、つまりは一般的な在米日系企業の皆さまには、そのまま反映できない可能性がある事を念頭に置く必要があります。

2. 給与データ(例)

そういった背景はさておき、給与変動に関する傾向がどうなっているかという事で、実際のデータを見て行きましょう。こちらの数字は、定点観測をしている複数のポジションをサンプルとして挙げており、次の内容でデータを抽出しています。

エリア:全米|業種:全業種|経験年数:7年|代表値:中央値(50th percentile) で抽出|ソース:ERI(Economic Research Institute)

注意点としましては、これらのポジションは、皆さまの所と同名のものであっても職務内容が異なる可能性が高く、また実給与額も御社が参考にする抽出設定になっていないという点、また、数字の抽出方法が御社にとって最適なものでは無い点に十分ご注意ください。

今回サンプルとして挙げているのはエントリーレベルあるいは一般レベルのもので、これとは別にマネージャーレベルの定点観測もありますが、それらを含めて見たとしても、やはり給与変動の傾向は職務やレベルによって異なっています。つまり、このテーブルにある実給与の上昇率は、そのまま御社のポジションに対して使用する事はできませんが、「給与の変動はポジションによって異なる」と理解するのにお役立ていただけたらと思います。

ちなみに、基本給ベンチマーキングを行う際は、通常、「対象となる雇用主の業界 × 対象ポジションの勤務エリア × 対象ポジションの職務内容」でソートを行ってデータを抽出する事が一般的です。抽出される給与データは、職務内容はもちろん、エリアや業界によって変動するため、これらの要素でソートできないデータソースでは正確な情報を入手する事が難しく、例えばウェブ上で無料公開されているソース (Salary.comやGlassdoorなど)では、先述の「業界・エリア・職務内容」のいずれかがソートできない、あるいは細かいソートができないため、皆さまの所に合致したデータを入手する事はできないと考えた方が良さそうです。

そのため、もし皆さまの所のポジションに合致したデータがご必要な場合は、「給与調査」サービスなど、専門的なデータベースから入手される事をお勧めします。
 
 ▶正しい市場相場を知る事は必須!給与調査にご関心のある方はこちら
 

3. 強まる給与レンジの必要性と適切性

最近の給与関連の大きなトレンドとして、通称「Pay Disclosure Requirement」というものがあります。これは、「Pay Transparency Law (給与透明性強化法)」の一環で、対象となる雇用主は社内外の求人や募集に関して、対象となるポジションの給与レンジ、つまり最低給与から最高給与までの範囲を公開する事が求められるというもので、この給与レンジの公開義務は、2023年9月からニューヨーク州で開始されており、ニューヨーク市や隣接するニュージャージー州のジャージーシティ市では2022年から、そしてカリフォルニア州においても2023年1月から導入されています。この動きは全米へと広まりつつあり、2024年にはハワイ州で、さらに2025年にはイリノイ州でこの法律が施行される予定となっています。

このPay Disclosure Requirementは、法律を遵守する事のみを考えれば、人材を募集する際に何かしらの給与レンジを記載すれば良いという事に留まるのですが、実際にはそれでは全くの不十分だと考えられます。ポイントとなるのは、応募者が求人広告を見る際に、皆さまの所の募集を見るだけでなく他社の募集も比較するかと思いますが、その際、記載されている給与レンジに開きがあった場合に、応募者は当然高い方に関心を持つ事になる事によって、優秀な人材を確保する事が難しくなってしまう点にあります。

そして何よりも、給与レンジを明示する事により、面接時に応募者から「自分の給与はどこから始まるの?」「給与の上限に近づくための条件や手段は?」「給与の上限達した後のキャリアパスや待遇はどうなっているの?」などといった質問が増加する点が挙げられます。
さらには、こういった質問は新規の応募者だけでなく、法律の対象外である「現職の従業員」からも寄せられる事が大いに予想されるため、各雇用主は入念な給与ストラクチャーを考える必要があります。そして、この給与レンジの設定はトレンドとなりつつあるため、Pay Disclosure Requirementが定められて無いエリアでも取り組む事が推奨されます。

 ▶正しい市場相場を知る事は必須!給与調査にご関心のある方はこちら


後編はコチラから▼

文責:Kimihiro Ogusu, SHRM-SCP|中央大学 非常勤講師
外資系大手コンサルティング会社のシニア・コンサルタントを経験。現在はSolutionPortの代表を務めながら、中央大学で教員としてHRの授業を担当している。HRの専門はTotal Rewardと Job Architectureで、米国HR協会の上級プロフェッショナル資格であるSHRM-SCPを保持。

アメリカと日本双方の義務教育を始め、日本にあるベンチャー/上場企業、日本に本社を置く米国法人、アメリカにあるローカルの日系企業、および外資系企業の勤務経験があり、日米における文化の違いを熟知するバイリンガル。

三菱UFJの法人会員向けの情報サイトである、MUFG BizBuddyで大好評連載中。SBS Radio(静岡放送)にも継続的に出演している。

🌟オススメのサービス🌟

▼報酬は基本給だけでは無い!~従業員の待遇に関する情報~▼

▼HR情報送信・情報ポータルサイトサービス|HR NAVI pro▼

▼新規赴任者研修 (オンデマンド)▼

🌟HR関連情報🌟

▼無料ニュースレター|HR Trend News▼

▼有料ニュースレター|グローバル時代の必須情報!プロが考察するHR▼

▼HRレギュレーション・アップデート ▼

SolutionPort, Inc.|450 Lexington Ave., 4th FL, New York, NY 10017

日本ではまだ正しく知られていない「HR」は、今後日本が「限定雇用」型の働き方に向かっていく中で必要不可欠な分野となります!HRエヴァンジェリストとしての活動サポートの方、何卒宜しくお願い致します!!