旅日記2*2024年3月3日 柴又
柴又で知らないお父さんと12時の鐘を聴く。
東京で行ったことのない街に行ってみようと思った。柴又かな。寅さん。チャ〜チャララララララララ〜の音楽しかほぼ知らない。ごめんなさい・・・と心の中で土下座しつつ、柴又へゆく。
わ!駅から寅さんムードだ!!とりあえず、駅前の参道を柴又帝釈天へ向かって歩く。柴又はなんとゆうか、どのお店も看板と店構えが立派!後から気になって調べたところ、東京で数少ない空襲の被害が比較的少なかった地域なんだとか。参道を歩いていると、看板の迫力を感じずにはいられない。
寅さんの初期撮影でも使われたらしい「とらや」さんで、草団子を食べようではないか。店先にそう書いてあった。草団子の店はたくさんあったが、ここのお団子、弾力が普通のお団子と全然違う!!!すごい!!噛む力が試されている気がする。お皿にひっつくし、入れ歯だったら、もっていかれそうである。
腹ごしらえもし、いざ、参道をふらふら。色んなお店があるけど、後でじっくり見よう。人もちょうど良い混み具合。あっという間に寺院に着いた。このお寺の、木の彫刻がすごい!細かい・・・私には一生かかっても作れそうもないな。本当に木だよね?と確認したくなるほどの曲線美。私のように立ち止まって見ている人はいなかった。有料だが、彫刻ギャラリーがあるらしいのだ。好きな人はそっちでじっくり見るのだろう。
最近の寺院や神社はお守りとか、諸々が本当にたくさんの種類がある。力の入れ具合がすごい。私はお守りは持っているので、なんとなーく、おみくじをした。獅子舞が踊って、おみくじを出してくれるカラクリおみくじ。すごーい。観光地にたまーにあるけど、実際にやったことはなかった。吉なのに、「自信過剰になってはいけません・・・」という出だしから、最後まであまり良いことは書いてなかった。願い事も思ったように叶わなければ、金運も下降ぎみだそうだ。そして、私はおみくじを引いたくらいで、あるお父さんに話しかけられる。定年くらいだろうか。
「(獅子舞)すごいね。はははは。踊ってる!・・・お宅、どちらから?」
お宅!と話しかけられたのは初めてな気がする。お宅!!お前と言われると少しムッと来るが、お宅である。あんたと言われるのも嫌な気がする。お宅!私はこの一言で、お父さんに感服したのである。
私はおおよその居住地を伝え、ほーう。という感じの反応を受ける。なんでも、お父さんは亀戸かどこかで、定期的にここに来るらしい。七五三とか、色々ね・・・と言っていた。この時、時間は11時55分であった。お父さんは、お寺の鐘を見上げ、「あの鐘ね、12時になると自動でつくんだよ。ここに来る時はいつも聴きに来るの。」という。じ、自動?私はいちいち感心する。
令和にもなると、寺の鐘は機械で自動になっていたのか。すごい。それにしても、このような経済的に余裕のある寺でなければ難しい気がする。そんなことを考えているとあっという間に12時になり、ゴーーンという鐘の音が鳴り始めた。お父さんと2人、顔を上げて鐘が自動でつかれるのを見る。12回鳴るらしい。時報の意味もあるのだとか。ゴーーン。有難い気もする。6時に18回、12時に12回、18時に18回。それは自動にもしたくなるだろう。鐘の音を、静かに聞き入る。
このお父さんの良いところは、適度な距離感を保ってくれるところだ。先程お父さんに柴又には初めて着て、行くところを特に決めていないと伝えていた。「寅さん記念館は?」と言われる。やっぱり、そうなるか。寅さん、観たことないんだけどなー。悩みだす。私はお父さんに別れを告げ、またふらふらと歩きだす。
大正末期~昭和初期の建物である、山本亭に行く。ここだけは、行ってみたかったのだ。なんてったって、綺麗なお庭、それを見ながらお茶を頂けるという。はあー。落ち着く。広いお庭、和室。お昼食べるのなんて忘れ、団子からの和菓子。これが1人旅の良いところである。
春だなあ。しばらくのんびりして、邸宅の中も見回る。この時代に珍しい二世帯住宅らしい。部屋数も多いし、各部屋も広い。玄関の隣に接客用の洋間もあり、なんとも豪華な造りだった。そして素敵な絵もあった。お庭は日本庭園で花がなかったが、この絵も見れて良かった。
山本亭から次なる目的地の寅さんミュージアムか川辺は徒歩1分。隣である。私は最後まで寅さんミュージアムに行くか悩んだが、入場料も高くないので行ってみた。寅さんミュージアムの展示は可動式のジオラマが音声と共に動いたり、寅さんを全然知らない人にも優しい作りになっていた。寅さんの履歴書や鞄も展示がある。
履歴書には住所不定とある。旅をしていた寅さんらしい。私も住所不定と書きたいものである。旅人の先輩として尊敬する。寅さんの鞄には必要最低限の物が見事に収まっている。まあ、現代女性ならこれに加えて日焼け止めや化粧品、スキンケア、、持ち物は多くなるが。
寅さんミュージアムをそこそこに切り上げ、参道に戻る。夕方はリクルートのオンライン面談が入っており、自宅に戻らなければならない時刻が近づいてきた。お昼をまんまと食べ損ねた。時間があればうなぎを頂いたのだが。にんにく醤油せんべいを食べ、佃煮を自宅用に買う。どちらも安価で美味しかった。
定年のおじさんというのは、偏見で申し訳ないが、こちらが興味もないうんちくを永遠と話してくる人がいる。自慢話や、距離感に少し違和感を感じてしまう人もいる。ただ、今日話したお父さんは初対面なのにとても良い距離感で接してくれた。私も年を重ねて、あのようになりたい。鐘の音を聴いた時は特に何にも願わなかったが(そもそも願わないか)、願えるのであれば、お父さんよ、元気でいてくれと願う。