梅花香5
この神社の境内にはたった一本だけ
梅の木がある。古い梅の木で、幹には
いくつものこぶがあった。この季節に
なると白梅が咲き、えも言われぬ香り
が漂う。ごつごつとした幹と可憐な白
い花の取り合わせが清吉の目には好ま
しく映った。毎年、彼はここの梅の花
を見るのを楽しみにしていた。梅の木
の下には床几が置いてあった。清吉は
木の箱を下ろした。床几にゆっくりと
座る。梅が優しく香る。清吉が梅の花
を見上げた瞬間、激しい風が巻きお
こった。境内の砂が舞い上がる。清吉
は慌ててふところから手ぬぐいを出し
て顔を覆う。すぐに強風は止んだ。彼
は手ぬぐいを顔から外す。目の前に、
女が一人立っていた。
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