ねぐらのもぐら
こそこそ、人目を気にしてしまう自分が嫌だ。佳子は、うんざりしてしまう。
こんなに真城くんのことが、好きなのに。いい歳のおじさんとおばさんが、べたべたするのもね…と思ってしまう。
違う。
そういう風に見られるのが、わかっているのだ。
そんなもの、見せるな!という視線が怖いのだ。
何よ。
若くて、きれいなカップルしかこの世に存在しないとでも?
中年だって、倦怠期のカップルばっかりじゃないのよ!
と、内心不満に思っていても、やっぱり、真城くんと歩く時は、なんだか、倦怠期カップル風に振る舞ってしまう。
やだやだ。
佳子は、真城くんと犬や猫みたいに、ずっとじゃれあっていたいぐらいなのに。
それを言ったら、真城くんは、目尻にシワを寄せて、悪戯っぽく言う。
「俺は、いいけど。佳子ちゃんがよければ。」
「あー、やっぱり路上では、できない!私は、典型的な日本人だ!」
「じゃ、路地裏に行く?」
「それだったら、それ以上のことしたくなる。」
「何言ってるの!」
「それぐらい、真城くんのこと、好きなの。」
「そんな思春期の男子みたいなことを…。」
しれっとした顔で、小声で話している二人。はたから見れば、晩ご飯何するか、話し合っている夫婦に見えるかもしれない。
家に帰ってドアを閉めた瞬間、佳子も真城くんも、外でつけてた仮面を外す。
じゃれあって、むつみあって、お互いの心臓の音を聞く。
佳子は、真城くんを好きになって初めて、自分は自分で、大人とか社会人とかどこそこで働いているとか、そんなの付属品であることを知った。
唇を合わせて、足が絡み合って、転がりあって。
髪を撫であって、手を繋いで、らちもないことを言いあう。
白髪になっても、腕にシミがあっても、手の甲に血管が浮いても。
見つめあう二人はただの二人だ。
真城くんの寝息を聞きながら、佳子は真城くんの腕に潜りこむ。
ここは、ねぐら。二人は、もぐら。
佳子は、微笑みながら、眠りに落ちた。