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梅花香6

女は小豆色の霰小紋の着物に黒繻子

の掛け襟と帯を身につけ、眉を落とし

丸髷を結っていた。愛嬌のあるふっく

らとした頬と白い肌、優しい目元をし

ていた。清吉は近在に住むどこかのお

かみさんかと思ったが、それにしては

浮世離れしすぎていた。女は微笑んで

会釈をした。その時に白い歯がちらり

と見えた。清吉は慌てて会釈を返しな

がら、お歯黒をしていないからひとり

ものだが、妾だろうかと考えた。それ

にしては、仇っぽさを感じない。彼に

は女がどういう身分なのか、さっぱり

見当がつかなかった。女は立ったまま

だ。清吉はその女に床几を勧めた。

「まあ、お座りなさい。」

「ありがとうございます。」

少し低めながら柔らかい声で女は応

え、清吉の隣に座る。きりっとしてそ

れでいて甘い香りが、清吉の鼻をくす

ぐった。

「おめえさん、名はなんていうんだ

い。」

女は青い眉根を寄せて、小首をかし

げる。清吉は自分の素性を明らかにし

てないから、女が警戒しているのだと

思った。

「おいらは清吉ていうんだ。かりん

とう売りの清吉ていやあ、だいたいこ

のあたりの人間は分かってくれる。怪

しいもんじゃねえよ。」

女はにっこりと笑う。白い歯がこぼれ

る。

「清吉様ですか。わたくしはこうと

申します。」

「おこうさんか。いい名だね。あと

悪いけど、清吉様はやめとくれ。呼ば

れるたびに、尻がこそばくなっちま

う。」

「じゃあ、なんとお呼びしたらよい

のですか。」

「そうだねえ、清さんとか、清吉さ

んかね。」

おこうはこくんと真面目にうなずい

た。清吉は足元の木の箱から袋を取り

出し、おこうに差し出す。

「かりんとう。残りもんだけど、よ

かったら食べとくれ。」


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