造船所を辞めるとき
僕は14年間、造船所の現場で大型商船を造る仕事をしている。
海が好きで、機械、エンジンが好きで船を造るのは好きだ。
しかし、造船所でいると苦しくなる時がある。
見たくないものが、たくさんある。
僕が造船所を辞めようと思ったのは、25歳の時だった。もう7年も前だ。
エンジンルームで機器の運転調整をしていた。
その頃の僕は釣りも必死にやっていた。海が好きだった。
船の種類によってはボイラーの水を細かく管理しないといけない。
そのため、成分を分析し悪ければ薬品を入れて海に捨てるのを繰り返す。
その薬品も当然、環境の事はある程度は考えて作られていると思うが、あまりあてにはできない。
それを自分の手でやるのが苦痛だった。
他にもIGG(イナートガスジェネレーター)という不活性ガスを作る機械がある。
これは当時、構造的上、海に油が流れるリスクがあった。
実際に、調整ミスやオペレーションの仕方によっては油が海に流れた。
僕は海に流れた油を中和させてごまかすために、洗剤を海に撒く担当にいつもなっていた。
自分の手で海を汚してお金をもらう。そのお金で釣具を買い、魚を釣って笑っている自分がイヤになった。
その頃僕は、水産業に興味を持っていた。養殖だった。
カキを陸上で養殖するというものだった。
自然と向き合う仕事。かっこ良かった。憧れた。
しかし、僕がいたのは大手の会社だった。
給料も休みも、なにひとつ文句はなかった。辞める決断ができなかった。
結局、その会社は30歳の時に辞めて、今は造船所の協力企業として仕事をさせてもらっているが、そろそろ自分の中で限界がきているような気がする。
どこの造船所に行っても、見えるものは同じ。イヤなものが見えてしまう。
船を造る事は、海運業界を支え、世界中に物資を運び、世界中の人々の暮らしを支える大きな仕事だと思っている。
その思いでなんとか続けてきた。
今回、僕は不正に携わることになった。
とある造船所は新型船でトラブルが続いている。
船級といって船の安全性、安定性、環境への影響についての基準を保証するためのものがある。
その検査が受からない。
僕たちはなんとか合格しようと必死だ。
でも、今いる僕の会社と造船所サイドが出した答えは、
「検査をごまかして不正をして合格する」との答え。
確かにこのまま検査が合格しなければ、お互い大きなダメージを受ける。
関係者の人ならこの道具で何をするか想像出来ると思う。
検査基準を満たさなくても、船は動く。
船が動けば、誰も困らないのかもしれない。
でもそんなことをするために、僕はここにいるんじゃない。
気持ちが固まった。
よし!漁師になろう!
7年間モヤモヤしてたものが晴れた気がした。
今年に入り少しずつ水産業の道に行くために、調べていた。
年内にはっきり、どこで何をするのかを決めることにする。
32歳からの挑戦は、けして早くない。苦労するこばかりだと思う。
最後のチャンスだ。
水産業の世界で、本気で海と、自然と向き合いながら生きていく。
さあ!これからどんなことが起きるかな!
造船というのは非常に大切な仕事。
関係者のみなさんが安心、安全な船を造ってくれているから、僕たちの手元に物が届く。生活が出来ている。
自信を持って船を造ってほしい。