耐量子計算機暗号・秘密計算のePrintウォッチング(2023年5月第2週)
@0917laplace です.
前回に続いて,暗号理論の中でも特に進展が早い(と思われる)耐量子計算機暗号と秘密計算の分野に絞って,週次単位でiacrに投稿されたePrintを整理します
今回は2023年5月第2週(5/7-5/13)に投稿された(厳密にはapprovedされた)耐量子計算機暗号・秘密計算のePrint(2023/634-2023/673)を対象に整理します
まとめ方の雰囲気としては,前回の記事を参照してください
耐量子計算機暗号
分野の分類としては
格子
符号
多変数
同種
ハッシュ
全般
その他
とします
*格子暗号を用いた準同型暗号方式は,こちらではなく次の秘密計算の章で集計します
↓読み込むまでに時間かかるかも?ですので,URL埋め込みもしておきます
PQCのまとめ表
今回注目したいのは number 663 です.
格子暗号と呼ばれる暗号方式の安全性の根拠となる問題は,大きく分けてLWE問題とNTRU問題の2つがあります.これらに基づく暗号方式はそれぞれ異なるものとなりますが,この論文で提案されているのはそれらのハイブリッド方式,ということになります.
LWE問題にはさまざまな派生がありますが,この論文では Module-LWE 問題を用いています.第3章の NTWE 問題の定式化を見ると,分布の構成を LWE 問題に寄せて,暗号文の構成を NTRU 問題に寄せているという印象です.
全体的に代数的整数論を仮定している(といっても代数体の整数環が分かれば十分)ですが,そこは読み飛ばしても影響はなさそうかなと思います.
秘密計算
分野の分類としては
準同型
MPC
GC(Garbled Circuit)
TEE
カード
ハードウェア
全般
その他
とします
↓同じくURL埋め込みをしておきます
秘密計算のまとめ表
こちらで注目すべきは number 664 です.
群作用が関わる同型問題は色々あります.3.1節で例示されていますが,グラフの同型問題やテンソル同型問題などです.また,耐量子計算機暗号の主要な4方式(格子暗号・符号ベース暗号・多変数多項式暗号・同種写像暗号)にもそれぞれ同型問題が存在します.
*その中でも最初に多変数多項式暗号が出てくるあたり,この方は多変数多項式暗号が専門なのですかね・・・?
この論文では,一般の同型問題を用いた認証方式や署名方式を紹介しつつ,最後の第5章でMPC-in-the-head方式を提案しています.
*MPC-in-the-head 方式とは,零知識証明を用いたプロトコルにMPCを組合せた方式のようです
↓原論文
Y. Ishai, E. Kushilevitz, R. Ostrovsky, A. Sahai: ``Zero-knowledge from secure multiparty computation.'', In: Proceedings of the thirty-ninth annual ACM symposium on Theory of computing, pp.21-30, 2007.
今回の内容はここまでです.ここまでご覧になってくださった方々ありがとうございます!