中国海軍の信号旗
信号旗とは
一定の条件を満たしたあらゆる艦船は「国際信号旗」を使用する。40枚の国際信号旗を用い、船舶が様々な通信を行うのである。これは中国海軍艦艇も例外ではない。しかし他の海軍と同じように中国海軍独自の信号旗運用ルールが存在する。
中国海軍オリジナルの信号旗
中国海軍艦艇の運用している信号旗は、国際信号旗40種(アルファベット旗A~Zで26枚、数字旗0~9で10枚、代表旗3枚、回答旗1枚)の他、「方角旗」東西南北4種、「執行旗」、(オリジナルの)「回答旗」の計46種類だと推定される。尚、オリジナルの6枚を「特殊旗」と総称する。また、国際信号旗の回答旗がオリジナルの回答旗と被るので、「国際回答旗」と表記されることもある。
尚、特殊旗はロシア海軍信号旗を元にしていると推測される。方角の示す向きが南北と東西で入れ替わっているのが興味深い。
尚、国際信号旗の数字旗は台形なのだが、中国の軍版の数字旗は完全な三角形である。尤も、デザインは同じなので運用上は区別なく使っているらしい。(なので厳密にいえば国際信号旗の数字旗は少し異なる形の旗を積んでいることになる)
武汉千喜旗帜工艺有限公司より
中国海軍の旗旒信号
まず「旗旒信号」(きりゅうしんごう)とは信号旗による通信を意味する。国際信号書の有名どころで言えばUW=ご安航を祈る、の様なものだ。この様な信号にも中国海軍オリジナルのものがある。
一字信号
文字通り1枚の旗に意味を持たせたものである。
Q旗=Q旗を揚げた艦は一斉に出航する。
B旗=火器使用中(?)
Z旗=訓練中(?)
尚、後者2つは報道等映像で上がっているのが散見され、状況的にこうだろう、という推測である。B旗は国際信号旗で「危険物の運搬/積載中」でNATO信号旗で「火器使用中」なので、同様の意味を持たせたと推測可能。
二字信号
こちらは信号旗2枚の組み合わせに特定の意味を持たせたもの。
VP=本艦は補給中である。安全に注意されたし。(原:我船正在进行补给作业，请注意安全)
下の写真は2022年12/28統幕発表の1枚。001型空母16「遼寧」に対し901型補給艦901「呼倫湖」が洋上補給をしている様子である。呼倫湖艦にVP旗が揚がっている。
三字信号
同様に3枚の信号旗の組み合わせに特定の意味を持たせたもの。
WTC=中国へようこそ（原:欢迎到中国来）
Welcome To Chinaの略。
GDB=さようなら（原:再见)或いは,さようなら、ご安航を祈る（再见、祝一路平安）
Goodbye或いはGoodbye Bon-voyageの略とされる。
ここに写真は出せないが、世界の艦船NO.695「システムとしての現代軍艦」に護衛艦「さざなみ」が訪中したという記事があり、そこに分かり易い写真があるので…(他力本願)。この2つは最近見ないし、後述の信号で同じような意味があるので使われなくなったのかも知れない。
LB-信号
これはLB-(-に1文字アルファベットが入る)で三字信号となるものだが、体系化されているので別項目とした。いずれも儀礼的な意味ではあるが、その分報道等での露出はある。尚、基本的に「中国海监礼仪规定」に基づく。
LBD=上級指導者が本艦に乗艦している。礼節に注意されたい。
LBF=指導者の指導を熱烈に歓迎します。
LBG=指導者の臨席、見学、指導を心より歓迎します。
LBH=親しい人の見学、指導を心より歓迎します。
LBI=貴方達の凱旋帰還を心より歓迎します。
LBJ=貴方達の勝利帰還を心より歓迎します。
LBK=指導者と同志達の到来を心より歓迎します。
LBM=指導者の心遣いに感謝し、指導者同志達の健康を祈ります。
LBN=指導者の心遣いと激励に感謝し、任務完遂を保障します。
LBO=指導者と同志達の心遣いに感謝します。
LBP=親しい人の心遣いと慰問に感謝します。
LBQ=貴方達の手助けと支援に感謝する。
LBR=同志達の幸せな祝祭日を祈る。
LBS=道中の御安航を祈る。
LBT=任務完遂を祈るor貴方達の優秀な成績/成果獲得を祝賀します。
LBU=同志達の目的地到達を祈る。
LBV=指導者に敬意を表する。
LBW=ご苦労様でした。貴方達から学びます。
LBX=人民の為に奉仕する。
LBY=訓練は完了した。ありがとう。貴方達は帰投されたし。
LBZ=ありがとう、さようなら。
LBTは2つ意味を載せているが、前者が報道によるもの、後者が中国海监礼仪规定のもの。
尚2022年11月、中国の920型病院船866「和平方舟」がジャカルタで医療提供を行うために入港した際、LCE,LCFの3文字信号を揚げていた。こちらもLB-と同じく儀礼的な信号と推測するところだが情報が皆無である。
中国海軍の信号符字
まず「信号符字」(しんごうふじ)とは各船に割り振られた「コールサイン」のことで、船名が変わっても変更されない符号である。
規模が小さい船だと無線の呼び出し符号をそのまま用いる(例:セブンアイランド結=JD4675)が、一定の規模以上だとアルファベットや数字計4文字の信号符字となる(例:おがさわら丸=7JAH)。
これが軍艦になると、アルファベット4文字となる。(小型で無線の符号を用いる場合を除く)例えば護衛艦もがみ=JSVAである。また、国や組織によって信号符字の最初が決まっている。例えば海自の場合JS--,米海軍ならN---,英海軍ならG---などである。
中国海軍の場合、BN--と推測される。中国海軍の信号符字は公開されていない。海外を訪れる際や海外の艦と演習をする際等でしか確認出来ない。以下報道等で判明した分を載せる。(なので合っていない場合もあるかも…)
052D型駆逐艦
173長沙=BNKG,118烏魯木斉=BNBJ,131太原=BNEA
054A型フリゲート
579邯鄲=BNAX
071型揚陸艦
987五指山=BNKU
920型病院船
866和平方舟=BNGA
である。
中国海軍の識別信号
艦船の識別には上記の信号符字が使用されることもあるが、国内では専ら当項の信号が使用されているらしい。
その信号とは”アルファベット+艦番号下2桁”である。
例えば上の写真だと、052D型駆逐艦172「昆明」と推測される艦にF72と揚げられている。F+艦番号下2桁の72である。
また、この写真では071型揚陸艦999「井崗山」に揚がるN99である。同様にアルファベット+艦番号下2桁の99である。
また、この様な”アルファベット1文字+艦番号下2桁”の信号とは別に
”艦番号(下)2桁+アルファベット”と逆になったもの
”アルファベット2文字+艦番号下2桁”
という信号も確認されており正直よく分からん。
上は001型空母「遼寧」の16Y。艦番号の下にアルファベットという逆のパターンもある。
一方こちらはアデン湾へ海賊対処に向かう052DL型駆逐艦123「淮南」の様子。左マストにBB23と揚がっている。”アルファベット2文字+艦番号下2桁”というパターンである。(尚上記にある様にLBN=「指導者の心遣いと激励に感謝し、任務完遂を保障します。」である。)
これら3パターンの信号であるが、いずれもアルファベットと艦番号2桁を使用する点は共通しているので、艦の識別に用いるのだと推測は出来るが、それぞれの住み分けはどうなっているのかまだまだ情報が足りない。
識別信号に使用されるアルファベットの推測
これらの報道から、艦種毎に使用するアルファベットが推測できる。
駆逐艦→F或いはBB
护卫舰→D ※ここで言う护卫舰(護衛艦)はフリゲートやコルベットを一括する艦種
揚陸艦→N
空母,補給艦→Y
機雷戦闘艦,タグボート→T
と推測される。まぁこれが確実とは言えないが、艦番号が分からない時の参考にもなるだろう。
さいごに
これまで中国海軍信号旗について見てきた。軽くまとめると…
1:中国海軍にはロシア海軍の物を元にするオリジナルの信号旗がある
2:中国海軍が旗に独自の意味を持たせて運用をしている
3:特にLB-の3文字信号はよく見る
4:信号符字はBN--、その他独自の識別信号を用いている
となる。いずれも情報不足な面もあるし、推測も多い。(中国海軍の信号旗について調べてる日本人は当垢くらいでは…?)これを見て中国海軍の信号旗に興味を持って調べてくれるとありがたいです。
参考資料など
世界の艦船
統合幕僚監部報道発表
CCTV
人民海軍、各戦区、央視軍事、解放軍報、学習軍団などのweibo
中国海监礼仪规定（试行）规范性文件 - 政策法规 - 中国海监 (hostadm.net)
他