鳥取県からの北海道移住 #8~利尻島へ伝えられた麒麟獅子
利尻島に移住した”因幡衆”たちは、出身地である鳥取県の郷土文化、郷土芸能・麒麟獅子舞も利尻島へもたらしました。
麒麟獅子舞は、因幡地方固有のもので、1650年(慶安3)、当時の藩主池田光仲が、樗谿(おおちだに)神社の祭事芸能として創始したものといわれています。
その後、各神社に広まり、1998年当時では、因幡地方の約8割の神社で144頭の麒麟獅子があるといわれています。
この麒麟獅子舞は、因幡と但馬の一部を中心に伝わる郷土芸能ですが、北海道の釧路市と利尻島にも伝わっています。
1.釧路の麒麟獅子
麒麟獅子は、因幡地方固有の郷土芸能です。
現在、北海道にも2カ所に麒麟獅子が存在します。
1カ所は、釧路市の鳥取神社。もう1カ所が、利尻島仙法志・長浜の長浜神社です。
いずれも鳥取県の移住者によって伝えられてものです。鳥取神社には、オス・メス2頭の麒麟獅子が存在しています。
この鳥取神社は、1884~1885年(明治17~18)に鳥取から移住した士族など計105戸が釧路の地に鳥取村をつくり、その鎮守として1887年(明治20)に創建したものです。
そして、麒麟獅子は、1940年(昭和15)に皇紀2600年を記念して鳥取市内の「聖神社」から贈られたものであり、現在では、毎年9月15日の祭礼日に獅子舞が奉納されています。
2.利尻島の麒麟獅子
これに対し、利尻島仙法志・長浜の麒麟獅子は、利尻島への移住後、間もない時期に鳥取からの移住者によって伝えられたもので、その伝来期は少なくとも明治末~大正初期まで、さかのぼることができます。
しかし、1918年(大正7)以降、麒麟獅子舞は途絶えることになります。その後、1991年(平成3)長浜神社で獅子頭が発見されます。
現在、利尻島で保存されている麒麟獅子は、「獅子頭 仙法志村」と大きく墨書きされた木箱に入れて、大切に保存されており、獅子頭以外にも猖々
(しょうじょう)面、猿田彦面、かや、鉦(かね)、獅子舞に必要な用具がほぼ一式揃っており、保存状態も良好です。
この獅子頭以外の用具も全て鳥取から伝えられたものといわれています。
3.利尻島への伝来
島の伝承によると「鳥取市里仁出身の森本金太郎が長浜神社に何かを寄付したいという思いから娘夫婦を通じて麒麟獅子を利尻島へ持ってきた」といわれています。
森本金太郎は、鳥取市里仁の坂口家の3男として生まれ、その後、森本家へ養子に入ります。
1893年(明治26)、坂口次郎らの親族とともに北海道へ渡り、最初は稚内・抜海地区で漁業に従事し、その後、利尻島仙法志へ移住します。
1916年(大正5)5月から1920年(大正9)まで、仙法志村の村会議員を務め、その間、1918年(大正7)からは、長浜地区の区長も兼任するなど、仙法志の中心人物として活躍した人です。
森本金太郎と麒麟獅子の関係は、定かではありませんが、彼は、神社総代も務めていたので、全く接点がないとも言えません。
麒麟獅子の伝来時期は、奉納された長浜神社の歴史が大きく関わってくることは間違いありません。
長浜神社は、佐々木長平父子が小祀堂を建立し「豊受稲荷大明神」を祀ったのが始まりで、1906年(明治39)には、因幡衆の寄付により社殿が
再建され、その後は、因幡衆の手によって、代々管理されてきました。
すなわち、長浜神社は、佐々木氏個人の信仰から1906年(明治39)を境に因幡衆による地域信仰へと形態が変わったと考えることができます。
この頃より、お祭り行事も賑やかになったということでもあり、1918年(大正7)には、獅子舞が行われていることが記録で残っています。
以上の点から麒麟獅子伝来時期は、1906年(明治39)頃であったと
推定されます。
1918年(大正7)の祭礼で獅子舞を指導したのが、鳥取県高草郡千代水村秋里(現 鳥取市秋里)出身の伊佐田長蔵でした。
彼は、ニシン建て網の親方だった人物で文化・芸能面で秀でていたといいます。秋里の獅子舞は、「権現流」の流れをくむといわれています。
4.利尻島での獅子舞復活
明治時代末期より舞われていた麒麟獅子舞も、1918年(大正7)以降、途絶えてしまいます。
しかし、1991年(平成3)、長浜神社で麒麟獅子舞に使用される獅子頭が発見されたことをきっかけに復活します。
2003年(平成15)鳥取市の「秋里荒木・三嶋神社伝統文化保存会」のメンバーが利尻島を訪れ、獅子舞を指導して復活させます。
翌2004年(平成16)に「秋里荒木・三嶋神社」の獅子舞を手本に利尻島仙法志の長浜神社で約100年ぶりに獅子舞が復活し、その後、
利尻風の獅子舞が披露されるようになりました。
その舞は、秋里の舞をベースに荒々しい海をイメージしています。
毎年6月20日、利尻島仙法志神社の祭典の宵宮祭に長浜神社境内で「利尻麒麟獅子舞う会」により奉納されます。
復活から20年となる2023年(令和5)に利尻麒麟獅子の故郷、鳥取市秋里にある「荒木・三嶋神社」で舞が奉納される予定です。
利尻と鳥取を結ぶ文化芸能は、今後も交流を通じ継承されていくに違いありません。
参考・引用文献
・小山富見男・岡村義彦『鳥取市史研究 第19号~明治・大正期の鳥取県人の北海道移住』鳥取市鳥取市史編さん委員会(平成10年)
・武田豊作『利尻を想う』(昭和57年)
・㈱ぶらっとマガジン『別冊HO 稚内・利尻・礼文』(令和3年)
・鳥取県歴史散歩研究会『鳥取県の歴史散歩』(平成15年)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?