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大正ロマンあふれる喫茶店で、絶品スープに出会う。

時刻は午前10時半過ぎ。その日、私は喫茶店前で固まっていた。正午から2時間ほどの予定があり、お腹が鳴らないよう早めのお昼を取るつもりだった。

喫茶店の入り口には注意書きが貼られている。

「道路でお並びになってお待ちください。
なお、本日は終日ケーキと飲み物だけの提供となります。」

まじか・・・・・・
都内の喫茶店はどこもいっぱいで入れないと噂には聞いていた。だが、まさかここまでとは。

喫茶店人気を考慮して、モーニングには遅く、ランチには早い時間帯を狙った。しかも座席数200超。この座席数ならさすがに入れるだろうという喫茶店を選んだのだ。

にも関わらず、入れない・・・・・・
しかもケーキと飲み物のみだと? 食事メニューを提供できないほど、超絶忙しいのか? それほどまでに都内の喫茶店は混雑するのか?

のんびり入店を待つ時間もないし、朝の10時半からケーキを食べる気持ちにもなれない。残念だが、急ぎ他のお店を探そう。

とはいっても、喫茶店以外の飲食店はまだ開店前だ。大体11時半開店、早くて11時開店だろう。食事メニューがある喫茶店に入るしかない。

幸い、来る途中に1軒喫茶店があった。しかも、名前を知っていた喫茶店だ。「気になっていたけど、この喫茶店、ここにあったんだぁ」と思いながら、先ほど通りすぎていたのである。急ぎ、その店まで戻る。

席が空いていますように!

祈りつつ店内に入ると、うっとたじろぐほど席が埋まっている。

えぇ~!? 都内の喫茶店、もうどうなっちゃってるの???

衝撃を受けていると、空いたテーブルの上のカップや皿を片していた店員さんに声をかけられた。

「奥の席にどうぞ」

冷静になって奥の席に目をやると、中央から窓際にかけては満席だが、壁際の席は数席あいていた。

よかった~~~。

ほっと一息、メニューを見る。食事セットがあった。先ほどの入店できなかった喫茶店でオムライスを食べるつもりだったので、オムライス気分だったが、残念ながらない。久しぶりにホットサンドを食べることにし、注文した。

改めて店内を見渡す。人が多い。私の中では、喫茶店はお昼から夕方にかけて混むから、お昼前は空いているというイメージだったが、もう時代は違うのだな。

耳に入ってくる言語からすると、どうやら海外からの観光客が多いようだ。大きなスーツケースを持った家族や団体が、人数が多いので複数席に分かれて座り、モーニングを楽しんでいる。

なるほど。だからどこの喫茶店も混んでいるのか。妙に納得して目線を上にやると、天井からぶら下がるランプが目に入った。1つ1つ異なるデザインな上になんだかレトロでかわいい。人が多くて気づかなかったが、よく見ると窓もレトロな感じのステンドグラスになっている。

なんだ、この感じ? うーん、昭和ではないな。うん、そうだ。大正ロマンだ! 

改めて店内の家具や装飾に目を向ける。モスグリーンのソファーにステンドグラスの大柄な花模様。どれも大正ロマン感満載だ。思いがけず、好みの喫茶店に入れたことを嬉しく感じる。

本を読みつつ待っていると、ほどなく飲み物やサラダが運ばれてきた。1つ、謎のカップが紛れている。とても小さいカップだ。それでいてうっすらと泡立った茶色っぽい液体が入っている。

右下の白いカップが謎のカップ

カップの大きさや液体の色からしてエスプレッソか? いやでも、頼んでいないしな。元々のセットにミニコーヒーが付いているのに、私がプラスでカフェラテを頼んでしまったのか?

いぶかしみながら、匂いをかぐ。
うーーーん、なんだ? とりあえず、エスプレッソでもコーヒーでもなさそうだ。この匂いを知っているような、知らないような。

恐る恐る、飲んでみる。

!!! んっっま!

いや、なにこれ、おいしっ。なんだ、一体なんなんだ。この旨味、すごいぞ。

胃袋までが喜んでいるのがわかる。しかしこの飲み物、何かしらのスープのようだが見当がつかない。ごくごく飲むのがもったいない旨味がある。ゆっくりと口の中で味わいたい。むしろ、このスープをコーヒーカップサイズでじっくり楽しみたいくらいだ。

だが、何といってもエスプレッソサイズである。味わってゆっくり飲んでも、すぐになくなってしまった。

あまりのおいしさに気になりすぎて後で調べたところ、どうやらマッシュルームスープだったようだ。

スープのおいしさの余韻が止まらぬまま、つづいてサラダを食べる。

うん、これもおいしい。レタスがフレッシュだからというのはもちろんだが、ちょっと酸味がきいたドレッシングの味がいい。お目当ての喫茶店に入れず、ついてないなと思っていたが、急きょ入ったこの喫茶店。大正ロマンあふれる店内に、高級レストランのようなスープやサラダの味わい。

ついている。こいつは今日、ついているぞ~。

めきめきと上がっていくテンション。きっとカフェラテもおいしいに違いない。一口、飲んでみる。

うん。やっぱりおいしい。スチームミルクの後に感じるエスプレッソの苦みが程よく、香りもいい。これは相当、ホットサンドも期待できるぞ~と気持ちが高まったところで、お待ちかねのホットサンド登場である。

ホットサンドを見て、ちょっと固まる。ピックが刺さっているのだ。

こ、これはどうやって食べるんだ? ピックを外して食べていいものなのか? それともピックを刺したまま食べるのか?

テレビで見る本格的なハンバーガーで悩むであろうこの問題に、まさかホットサンドで出くわすとは。

うーーん。悩んだ結果、外して食べることにした。パンや中身がずれないよう、しっかり挟んでパクっと一口。

うん、普通だな・・・・・・

あまりに期待が高まりすぎていたからだろう。想像を超えてこない。決してマズイわけでもなく、おいしいかマズイかの2択なら迷わずおいしいを選択するのだが、なにせスープがおいしすぎた。

スープを飲んだ時のような、「おいしい~!!!」と思わず叫びたくなるようなあの驚きや感動はない。まぁでも、むしろこれが普通なのだろう。あまりにスープがおいしすぎたのだ。

都会の喫茶店には入れない。噂通りの洗礼は浴びたものの、だからこそ雰囲気も味もいい喫茶店を見つけることができた。ツキが戻ってきている気がする。

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