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ジョンが出会った読者たち【第62話】

留年崖っぷち!!

シバノソウへ、母からの手紙

★ここを読んでくださっている皆さん、今日は大切なお話があります。このページから生まれたミュージシャン、シバノソウのことです。今や彼女は毎週のようにいろんなイベントに出演し、初回は雨の中たった一人で歌ってた原宿での定期路上ライブも、だんだん人が集まるようになってきました。同時に、ツイッターのフォロワーも急増して、ついに念願の『シブカル祭。』の出演も決まりました。でも、彼女はまだ高校1年生。先日、彼女は学校で5者面談があり、先生から「単位が足りなくて進級が危うい」と告げられたんだそうです。彼女にとって“今”がとても大切です。そこで彼女のお母さんに手紙を書いてもらいました。シバノソウも、そして大人たちも、どうかこれを読んで、彼女、そしてこの国のあり方について考えていただけたらと思います。

ソウさんへ

 この頃まともに会話をしていないので、手紙を書くことにしました。「お はよう」「ただいま」の挨拶も、こちらから声をかけてやっとボソボソと言うよね。以前のように、部活でのあれやこれやとか、担任がこんなワケわからないこと言ってるとか、誰々の家庭がゴタゴタしていて大変そうだとか、いろいろな話をしてくれることもなくなりました。

 部活を辞めてから(これも訊くまで教えてくれませんでした)毎日深夜まで出歩いていて、部屋は以前にも増して散らかり放題だし、洗濯物や 汚れた服、本や文房具、デジタル機器が散乱したベッドに、風呂にも入らず 歯も磨かずにそのまま寝ちゃうこともしょっちゅうです。約束も守らない。 「なんでこんな子になっちゃったかな」と、ため息しか出ません。


  小4の3学期に今の団地に引っ越してきて、母子家庭の生活が始まりましたが、あなたは家事や料理などの手助けを文句も言わずにしっかりとやってくれました。仕事をしながらの子育てを、危うげながらも何とか乗り切ってこれたのは、ひとえにあなたの努力のおかげです。子育ての苦労など感じることもなく、自力ですくすくと成長してくれたことに、ただただ感謝するばかりです。どこで話を聞いても「ソウさんは他の子供と比べて考え方がしっかりしている」という自慢の娘でしたが、中学に入り、嵐への興味が薄れた頃から、少しずつ様子が変わっていきました。

 大きな転機が訪れたのは中学2年の終わり頃でしたね。うちはブロスを 定期購読していますから、ジョンさんの連載にあなたがしばしば登場して いることは知っていました。小さなきっかけから『フェスボルタ』のステージに立つことが決まり、舞い上がっていたこ とをよく覚えています。それから2年あまり。ジョンさんやキネボルタさん、編集の木下さんなどのお世話になりながら、駆け出しミュージシャンとしてのステージ経験を積み上げてきました。自作の曲もいくつか生まれ、シバノソウ名義のCDを完成させたことは、自分ひとりの力でないにせよ、とても素晴らしいことだと思います。

 

 ただ、ここに来て深刻な問題が発生しました。高校に進学してから、よりいっそう音楽にのめり込んで学業をおろそかにした結果、このままでは進 級できないという状況下に置かれています。それでもなお、あなたは無事に進級して今の高校を卒業することを強く希望している。

 間の悪いことに、このところジョンさんたちの手から離れるように、自分 でフィールドを開拓して精力的に演奏を行っていますね。活動的なのはよ いことです。でも、今やらなきゃいけないことは、本当にそれなのかな? ブッキングしちゃった分のステージに穴を空けられないのはわかる。けれど、 CDを手売りするために、ライブが終わった後まで残っているのは違うと思うんだ。「なんで出番が終わったらすぐに帰ってこないの?」と訊いたら、「お金が入らないと次のCDが作れないから」と言ったね。お金が必要なら立て替えることは、私や他の人にもできる。だけど、進級に必要な勉強は誰も代わってあげられないんだよ。

 あなたの周囲にいる大人たち。彼らが、それぞれの言動でひとりの人間 の人生を大きく左右していることを認識してくれているなら、あなたは何 も心配することはないでしょう。でも、そんな義理は誰にもないんだよ。そのことをしっかり認識してほしい。


  いろいろ書いたけれど、実のところ心配はしていません。自分の信じた道を突き進めばいい。このまま学校を放逐されたとしても、別に負け組だとは思わないし、音楽と関わる業種はごまんとあるので、将来的にもなんとか食っていけるでしょう。人生いろいろが面白いのであり、だからこそ生きていくのである。今後、いろいろと手痛い目にあったりもするだろうけれど、まあ、がんばれ。つらいことから逃れるのも一つの方法。でも、立ち向かって乗り越えることも大切だとわかってね。

  あなたの幸せを願う、ということはしません。だって、生きてるだけで幸せなんだから。でも幸あれ。楽しい人生を歩んでください。 

母より


ジョンから一言 

頼む!勉強してくれ!

「周囲にいる大人たちの言動が、ひとりの人間の人生を大きく左右している」。これを読んでハッとさせられました。かわいいからいいじゃん、面白いからいいじゃんで僕ら大人はいいのでしょうか? 彼女がまだ中学生の頃、冗談なのか本気なのか、よく「高校生になったら『中学生』というブランドがなくなってしまう」と、まるで人生が終わってしまうかのように言ってました。そんなことを中学生に言わせてしまう、この日本社会がどうかしてると思います。中学生はおろか、高校生もまだ人間的な仕込みの時期です。シバノソウさん、歌で出すならその分、何かをあなたの中に入れなきゃいけません。あなたは今、その中身を充実させるべきなんです。何も入れないでただ歌ってても、出ていくばかりじゃスッカスカな歌にしかならず、それこそJKが終わった途端ポイですよ。これじゃあなたの才能が勿体なさすぎる。人生はとても長いんです。勉強はあなたの人生を豊かにしてくれます。まだあなたの目線からは見えないかもしれないけれど、いろんなチャンスを広げてくれます。何かを頼ろうとするのではなく、頼られる大人になってください。それが最高にROCKだと僕は思います。



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