全裸監督―村西とおる伝―について 本橋信宏著
文庫で850頁を超える大作(元は2016年太田出版より刊行)。著者はライター・編集者として村西とおると1984年から付き合いがある。内容がAVの世界で頂点を極めた男の話でNetflixでも映像化されているが、原作を読んでいる人は少ないのではないだろうか。Netflixに入っていないのでドラマが見れず、原作で我慢しようと文庫を購入して読んでみたら、これがとても面白かった。映像も良いが、原作の方が幅広い伏線とエピソードが満載で面白いのではないだろうか。ちなみに購入した書店はコレド室町の誠品生活日本橋。東京を離れる数日前のことである。
この本の感想をコンパクトにまとめようと思ったが、内容が濃く、関心があまりに方々に拡がるため、今後、章ごとに個人的要約として記録していく。
エピローグを読むと、村西とおる伝を著者に熱心に働きかけた編集者が太田出版の編集長/穂原俊二だと分かる。同時期に村西とおるを15年に渡り撮影したドキュメンタリー映画「ナイスですね村西とおる」(高槻彰監督)も公開されたらしいが、これはDVDにはなっていないかもしれない。
ネットフリックスの配信が2019年8月。全世界配信で1億6,000万人が視聴。
著者の本橋信宏は現在65歳。村西とおるは68歳だからほぼ同年代。それまでも風俗・AV業界のノンフィクションの著作が多い作家だが、あまり認知度はなかったと思う。
本は編年体で19章に分かれ、前後にプロローグとエピローグ。付録として、Netflixのドラマ化の後に書かれた文庫本のためのあとがき、年表、解説が付く。
19章のタイトルにはその時々のエピソードの象徴的な数字が付けられ、読者を引き込ませる。例えば、「600万円」村西とおるが毎月警視庁刑事たちに渡していた工作資金とか、「4本」『SMぽいの好き』主演・黒木香が陰部に挿入した指の本数とか、もうタイトルだけで読む側を前のめりにさせるし、読み始めてもますます関心が方々に拡がっていく。それは、このノンフィクションが一人の男の伝記を通してAV業界やビニ本業界で暗躍した人々の群像劇とも事件簿ともいえる内容だからで、男なら関心のあるAV女優やAV制作会社を個別に調べてもっと深掘りしたくなる。
前科7犯・借金50億・AVの帝王、村西とおること本名/草野博美。
エロのパフォーマンス化・49番目の体位「駅弁」の考案・本番路線・どんな相手も口説き落とす「応酬話法」(AV界のジャパネットたかたのようなもの?)。形容詞やキャッチコピーが百花繚乱である。
AV監督として有名な村西とおるだが、その業界に入る前の職業(英語教材販売)や3度目の結婚で授かった息子がお受験界の最難関小学校に合格したことは知らなかった。芸能界や知識人とのエピソードも興味深い(ジャニーズ事務所との軋轢/田原俊彦のスキャンダルは金沢のホテルだったり、元フォーリーブス北公次の暴露本出版や復帰サポートなど)。
プロローグの大半は1986年の本番モノAVの採録(主演は沼田好子)。映像を文字にするとこうなる、という感じ。
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