全裸監督 第8章 要約
第8章 1位(『ビデオ・ザ・ワールド』1985年のAVベスト1に選ばれた村西監督作品「恥辱の女」の順位)
女優の顔に精液をかけるという那須高原のハプニングが売上に貢献。「恥辱の女」の主役を務めたのは立川ひとみ。「恥辱の女」は1年後に出る黒木香の「SMぽいの好き」の原型となる作品で、村西にとってエポックメーキングになった。この頃から村西作品は好意的な評価を得始めたが、村西の胡散臭い語り口は嫌悪感をもって否定されてもいた。年が明けた1986年、クリスタル映像は早稲田鶴巻町に引越している。鶴巻町は印刷や製本の小さな工場が立ち並び、村西が昔、裏本を作っていた頃、指名手配で追われていた街でもあった。この年の新語流行語大賞が「新人類」。
AVに出演する女性を口説き落とす村西の応酬話法の凄みを再現するエピソード。親にばれる問題をメリットにしてしまう肉体賛美の論法。女性が好む運命・宿命を感じさせ、自己の存在欲求を刺激する動機付け。騙しているようにも見える応酬話法に女性が安心し、納得する様が目に浮かぶ。そうして、一度だけだったらやってみよう、これだけ強く頼まれているんだから、自分が提供できるものがあるのなら喜んで提供しよう、となる。情熱を込めて道を説く男に女が根負けするのである。
Netflixのドラマで、米俵のような大型の業務用カメラを山田孝之が担いで撮影している象徴的なシーンはこのころ誕生した。監督・脚本・男優だけでなく、カメラマンまでやる村西スタイルが確立、量産面でも他社を圧倒していく(他社がせいぜい月2本撮るのに対して、村西は12本)。作品の質が最も高いのもこの時期だと著者は分析しており、村西の量産スタイルを松本清張や江戸川乱歩、太宰治や芥川龍之介の量産時代と比較しているのも面白い。当時の村西を「ビデオ業界のマルコス大統領」「ポルノ界の徳田虎雄」「業界のカダフィ大佐」とあだ名をつけたのも著者。
AV女優/沙羅樹(さらいつき)との出会い。18歳でクリスタル映像の専属女優第一号(業界初)。専属女優は大事に扱われていて、給与は50万からスタートし最終的には300万になっていく。出演もクリスタル3本、ダイヤモンド2本だけ。あの黒木香も2本だけ。村西が見込んだ女優は1本でスターになる例。見込まれた女優も村西を尊敬し、時に恋愛感情を持つ。ちなみに、沙羅樹は離婚を経て現在は独身、48歳の今も現役でAV・映画に出演している。
こうした最中、1986年4月、関税定率法第21条違反容疑で一斉捜査が入る。これは、業界の自主審査機関「日本ビデオ倫理協会」通称ビデ倫の審査は受けていたが、税関を通して税金を納めることを忘れていたことによるのだが、逮捕ではなく行政処分で済んだ。だが、同年6月、職業安定法及び児童福祉法違反容疑で逮捕。巷では、こうした報道をきっかけにクリスタル映像はなんだか過激らしいという噂が流れ、皮肉なことに作品がまたもや売れ出す。