エフェクターコラム08 「BJFE Honey Bee OD」
ついにこのコラムも8回目!8と言えばハチ、Honey Bee OD、つまりミツバチオーバードライブです。
Centaurが過去の幻のオーバードライブであったならば、現行品としての幻のオーバードライブとしてはこのBJFE版Honey Bee ODだと思います。個人的には特に日本人が大好きなペダルな印象がありますが。私も大好きです。大好き過ぎます。永遠のメインの歪みだろうと思いながら何年もずっと使い続けています。こちらに関してはネットでの情報量が少なかったので、一助になればと記事にしてみました。
北欧発!エフェクターフォーラムから作られたペダル
北欧はスウェーデンの作者、Björn Juhl氏がエフェクター制作を開始したのはなんと1981年のことだそう(このあたりを詳しく書いてくださっているNico -Nico Guitars様ページはこちら)。SD-1発売当時から自作を開始するとは、もはやベテラン中のベテラン…。
さらに特徴的なのは、彼がエフェクターフォーラムでユーザーとやり取りしながらペダルを完成させていったらしいのです。(気になるおもちゃ様コラムより)。なんとなくこのあたり、今となっては世界一売れたゲームと言われているMinecraftにとても近い印象があります。あちらも開発者のNotch氏は同じスウェーデン、そしてフォーラムでユーザーと直接情報交換をしながらMinecraftを完成させました。北欧とゲームについては書き出すとキリがないので我慢。
Honey Bee ODの発売は2002年。なんともう今年で20年。最近は過去よりもお店などに出回る数が増えてきた印象がありますが、それでもふらっと入った楽器屋さんの店頭に並んでいることはほぼ見かけません。当然私も最初はHoney Bee ODっていうやばい幻のペダルがあるらしいぞ、という情報からはじまりました。Sonic YouthのLee Ranald氏も使っているらしいぞと。(Lee Ranald氏の歴代機材リストはこちら)
スイートでウォーム、そしてダークな魅惑のサウンド
どんなギターの音が好きですか?と聞かれれば、私は「甘くて暖かくて高音が耳にキンキンしない重心が低めの音」と答えます。つまりどストライクでした。
こちらのNico-Nico Guitar様の音源が個人的には一番印象が近かったです。しかしもうエフェクターを通さない時点でいい音…。
こんなに甘く、暖かい音のするペダルはほとんど知りませんでした。強いて言うならばCrowther AudioのHot Cakeあたりでしょうか。あちらも個人で作られている熱狂的ファンの多い歴史のあるペダルです。
踏み込んだ瞬間に音が一段ソフトになり、低音から中域にかけて膨らみ、なんとも甘く色気のある、リッチでシルキーな音に。まるでマルゲリータのピザにかけるハチミツ。チーズの旨味とコクを引き出す最高のハーモニー。TS系のように「ああこれすきぃ!!」とテンションが上がるより、「ああ…好き…」と優しくリラックスして口元がゆるむような魅惑のサウンドです。低音も増えるので全体の重心が下に沈みダークな印象に、しかし高域のきらめきが失われることもありません。
そしてピッキングに対する反応のよさ。クリーンの状態のアンプで使えば、強く振り抜けばぎゅーん、と歪んでくれ、弱いタッチにはクリーンになるという、ギター側のボリュームコントロールを触らなくてもタッチで完全に音をコントロールできる稀有なペダル。少なくとも私はここまでタッチに追従してきてくれるペダルを他に知りません。ふみっぱなし、かけっぱなし、もうこの子なしにはギターを弾けません。壊れていなくてもいざという時のために似ている音の個体をもう一つ欲しい…。
とはいえ、オーバードライブとしてはかなりソフトな部類になるので、もっと暴れた音や激しさを求める方には拍子抜けな印象を与えるかもしれません。クリーンでもパキーンとトゥワンギーに抜けてくるサウンドを好む方にも合わないかもしれません。ぱっと見は素朴で優しい、でも使ってみるとチューニングセンスの良さにびっくりする、そんなペダルです。
より歪みが欲しい時は後段に違うオーバードライブを
もっとゲインをあげて暴れたくなる時もあるのよ。わかります。そんな時には後段にもう一つお気に入りのペダルを加えるのがおすすめです。私の場合は前段のHoney Beeは常にオン、もうちょっと行きたいときには別のペダルを踏み込みます。これでさらに後段のペダルを気持ちよく、ディストーションくらいの歪みまで稼ぐことができます。歪みペダルを2つ繋いだ時に起きがちなロー痩せも気になりません。試奏する時はぜひ現在のお気に入りのペダルも持ち込んでみてください。
個体差とバリエーション
何台か弾かせてもらったことがあるのですが、製造時期によって内部回路、サウンドともにかなり変わり、個体差もあるイメージです。特に違いとして感じるのは音の重心や明るさのイメージです。一般的に言われているのは製造年が後期になればなるほど音が明るくなっていくとか。なので現行品でも昔の個体の音を求めるユーザーのために、レトロバージョンも存在します。さらにはBass, Trebleノブのついた4ノブバージョンも。とはいえ、ほとんどのお店にいくつもバージョンが揃って置いてあるわけもなく、このあたりはもう気に入るか気に入らないかが全てです、きっと。
BearFoot FX版
Honey Bee ODを探すユーザーにとってBJFE版より手に入りやすいと言われるBearfoot版です。こちらもBjörn Juhl氏の回路設計、公認のオフィシャル版です。製作者はBJFEの外装塗装を手掛けていたアメリカのDonner Rusk氏。日本の流通価格ではおよそ半額くらいで手に入ります。では実際音はどうなのか?
これはまた論争になるところなのですが、全く同じだ、と言っている人もいれば、全然違う、と言っている人もいます。こちらの気になるおもちゃ様でも比較コンテンツがあります。
個人的な比較感想を言えば「違う、違うけどライブとかレコーディングだと一緒」です。
そもそも私が試したいくつかのBJFE版でも音が全く同じということはありませんでした。全体的な傾向やトーンは同じでも、「こっちはちょっと明るいね」「これは結構ダークだね」「これはちょっと腰高な感じ」などの違いは必ずあります。この個体差というのはBJFEが特に激しいわけでもなく製造時期によってもパーツによっても、同じパーツと回路でもパーツ自体の定数すら違うものなのでどのメーカーにも必ずあるものだと思っています。それはギターでもアンプでも同じです。
音の傾向としてはもう、「同じ」と言ってしまっていいと思います。なので、「BJFE版じゃないとだめ」ということはもちろんありません。それに音質は何よりも使う本人の好みです。
その前提で私が両方を比較できた時に感じたのは「音の太さ」と「立体感」の違いでした。どちらもBJFEの方がある印象です。ただしBearfoot版は一台しか音出ししたことはありませんし、ライブやレコーディングで「ああ、BJFEの音だね」「Bearfoot版だね」と聞き分けられる人はほぼいないと思います。しかし同様にBJFE版もBearFoot版も収集し比較して楽しんでいる方もいらっしゃるので、そういう楽しみ方も好きですし、え、楽しそうだからちょっと参加させて!という感じでもあります。
人生も楽器も一期一会の出会いなので、気に入ったらGO!これに尽きます。
MAD PROFESSOR SWEET HONEY OVERDRIVE
こちらはBjörn Juhl氏がより流通しやすいパーツで回路設計をし直したものになります。個人的にはこちらはもっと元気で倍音感のあるタイプだと思います。BEFE版やBearfoot FX版よりも元気でガッツのあるサウンドを求める方に。
One Control / Honey Bee OD
こちらはBJFEの日本の輸入代理店であり同氏とのコラボレーションモデルも数多くリリースしているLep International発のブランド、One Controlバージョン。回路設計もBjörn Juhl氏。こちらはミニスイッチで旧バージョン、新バージョンの音の違いを切り替えられるようです。こちらは私が試したことがありませんのでご紹介まで。比較する機会があれば追記したいと思っています。
おわりに
長らく伝説と言われるペダルの紹介記事、いかがだったでしょうか。より自分好みのサウンドを追求するギタリストの方々に少しでも役立てたなら幸いです。