エフェクターコラム12 「Distortion その1 ハードロック系」

オーバードライブについてはあらかたご紹介できたと思いますので、今回は「オーバードライブよりも深い歪み」を作ることができるDistortion(ディストーション)について書いていきたいと思います。

Distortionと言えばランディ・ローズ様、ランディ・ローズと言えばCrazy Trainです。80年代の香りがプンプンなハイゲインサウンドに多くのギターキッズたちが猛練習したであろう有名なリフでございます。ハイゲインサウンドというのは、アンプのゲイン(入力感度)をごりごりにあげて深く歪ませた音のことです。

きっと多くの人がエレキギターという楽器に対して持っている印象というのは、この手のギャンギャンなハイゲインに歪ませたギターサウンドかもしれません。

辛いものがブームになると激辛が加速していくように、スピードへの憧れがドラッグレースやF1なっていくように、エレキギターのサウンドも歪みがかっこいい、となれば、「おれはもっと歪ませてやるぜ」とどんどんハイゲイン化を辿ることになります。特にディストーションが脚光を浴びていくのが80年代からのハードロック・ヘビーメタル、音楽雑誌なんかでも目にする「HR/HM」と言われる時代になります。

尖ったギターにギャンギャンなサウンドは最近の80Sリバイバルでファッションや映画などでも見られますよね。この時代はギター音楽もやたらとテクニカルな「速弾き」がメインストリームだったので、HR/HMの洗礼を受けている当時の世代の方々は、未だにギターがめちゃくちゃうまいです。うまいというかやたらと速い。楽器屋さんとかでギターを見ていると、試奏している人がやたら速弾きとかをしていてびっくりします。

人の試奏を聞いているとサウンド、演奏フレーズなどが渡世人の名乗り口上みたいに聞こえてきます。「お控えなすって、手前生国申しますは80年代より続くHR/HM、師と仰ぎますはオジー・オズボーンバンドの悲劇の早世ギタリスト、ランディ・ローズ様にございます」みたいな。なるほど、そちらのルーツで…となるわけです。全然関係ない話ですね。

全然関係ない話をもう一つすると、私はCrazy Trainを聞くとこの曲よりも知るのが早かった聖飢魔IIの名曲が脳内に先に流れていまいます。

大好きです。こちらもナイスディストーションサウンド。貴重な「蝋人形にしてやらない」バージョンをご堪能ください。

Distortionエフェクターの歴史

そうです。エフェクターの話です。Distortionの話でございます。ハードロック系サウンドやDistortionがメインストリームになったのは80年代ですが、Distortionという名前のエフェクターが世界に出たのは、もっと古い70年代になります。それも日本のBOSSよりも早く、Tube Screamerにすらそのコンパクトサイズで大いに影響を与えたとされる「MXR」から始まります。

世界初のコンパクトエフェクターメーカー MXR

ビンテージエフェクターなどを目にした人の多くがまず思うことはきっと、「昔のエフェクターってでかくね?」ということでしょう。当時のエフェクターは大人のお弁当箱サイズ。そんな頃には考えられないほど小さなサイズのエフェクターを作ったMXRが創業したのは1972年になります。フェイザーとして現代でも定番の名機「Phase 90」をリリースし、74年にはこれまた定番中の定番の「Dyna Comp」、そしてその一年前の73年にリリースされたのが世界初のDistortionとされる「Distortion+」です。

ここでまた、フーチーズ村田氏にご登場していただきましょう。

文章レビューももちろんあるよ

村田氏の文中にもあるように、個人的には明るくてカラっと乾いた粗い歪み、質感としてはなめらかなファズのような印象もあるペダルです。そしてこのDistortion+の愛用者としてよく知られているのが、冒頭でも紹介したランディ・ローズ様だと思います。70年代後半あたりから様々なハイゲインサウンドのギターヒーローがいた中でランディ・ローズを取り上げたのもそんな事情によります。

1年後の74年にMaxonからD&Sが発売

ビンテージ・エフェクター・ファイル Vol.9 「ファズ的歪みからハイゲイン・オーバードライブへと変化したMaxonのD&S」

すぐに日本でもTube Screamerの開発で後に有名になるMaxonがD&S、Distortion&Sustainerを発売。サイズや見た目はMXRをとても意識していることが伺えますが、当時コピー大国であった日本が、輸入製品が異様に高かった為替の理由などもあいまって、より手にとりやすいモデルを作ろうとしたのも自然なことだったのだと思います。サウンド的にはこちらもよく言われることですが、なめらかなBig Muffのような印象です。ギンギンする印象が追加されたと言いますか。

そして1978年にBOSSがDS-1を発売

ビンテージ・エフェクター・ファイル Vol.18「BOSS DS-1 Distortion 〜ディストーションの大定番!」

BOSSのOD-1の発売後すぐにDS-1を発売します。こちらはより歪みの目が細かくなりギンギンテイストも増えている印象です。そして実はこのDS-1がBOSS歴代市場世界で一番売れた製品でもあります。

最近日本でも大人気のKhruangbinのMark Speer氏も、ボードにこのDS-1を入れています。Premier Guitarのコンテンツでもギター・マガジンの雑誌記事でもなぜかDriveとLevelは0になっていてToneだけがフルになっているので、ちょっと使い方が謎です。


1979年には大定番機種Pro Co RATが発売

ビンテージ・エフェクター・ファイル Vol.4「Pro Co RAT〜独特のディストーション・サウンドで熱烈なフォロワーを生んだ80年代の名機」

上の記事の通り1978年からプロトタイプが製造されはじめ、79年より量産がスタートした定番機種RAT。Distortionの中で一番フォロワーモデルが発売されているのが、このRATという印象です。

サウンドはある意味とても素直なDistortionと言いますか、ギンギン系ではなくしっかり歪みつつも使いやすい音と言いますか、後に定番として長らく生産されていくだけある、バランスのいいDistortionサウンドのお手本とも言うべきモデルです。

1988年にはMarshall The Guv’norが発売

こちらも定番として根強い人気のあるガバナー。RATと比較するとよりミッドレンジに特徴があり音がタイトな感じでしょうか。RATと並んでとても扱いやすい印象です。初期型はUK製、後期型は韓国製になります。

Distortionの歴史を軽く紹介するつもりがそのまま定番機種の紹介になってしまったような気がします。他にも様々な機種があるとは思いますが、これだけ押さえておけばDistortion好きの彼との会話も弾むことは確実です。落とせます。

OverdriveやFuzzとの境目について

歪みがOverdriveより深くなるとDistortionって言うのはわかった、わかったけど、どれくらいからDistortionなの?もしくは、さっきFuzzっぽいって書いてたのもあったけど、どこまでがFuzzでどこからDistortionになるの?きっとこんな疑問を持たれる方もいると思います。

正直これはもうその人次第というか、境目ってないも同然なんですよね。私の印象だとブリッジミュートをしながら巻弦をピッキングした時にザクザクしてくれるくらい歪むとDistrortion、音が荒く太く泥臭いような暴れる音を持っているとFuzzっぽいという印象になります。なのでみなさんも何も恐れず、「Fuzzっぽいね!」「Distortionぽいね!」と思うがまま使っていきましょう。

現代の代表機種

Suhr Riot

村田さんの文章レビューはこちら

音出しをする人のほとんどが、「これ好き!」と言う定番優秀機種といえばSuhrのRiot。上に紹介したDistortionたちと比較して目が細かく、ミッドにぎゅっと帯域が集まっている印象です。必要以上にレンジも広くないので、ギターサウンドが壁のようにバンド全体の帯域を支配することもなく、バンドとしての楽器それぞれのバランスが取りやすく、しっかりと抜けてくれる本当に優秀な機種です。プロギタリストに愛用者の多いSuhrらしいエフェクターだと思います。

1981 Inventions DRV

RATインスパイア系で人気の機種がこちら。ガバナーやRiotのようなミッド感がなく全体的にクリアですっきりしているものの、しっかり高品質なディストーションサウンドを作ってくれる機種という印象です。RATのDistortionツマミをあげていった時にぼわっとしてしまうローの感じもタイトにまとめてくれていて、モダンなサウンドなので、ポストロックなどにも相性がよさそうです。

Umbrella Company #24

発売されたばかりの話題沸騰中の人気機種がこちら。オールドスクールなハードロックサウンドから音圧感のあるモダンなハイゲインまでいけてしまう現代版かっこいいDistortion。ペダルボードに1つはいっているとどんな音でもカバーできてしまう万能選手な印象です。

おわりに

Distortion、としてメタル系ウルトラハイゲインサウンドまで紹介できるかなと思ったのですが予想以上に長くなってしまいました、次回はメタル系Distortionについても書いていきたいと思います。

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