エフェクターコラム06 「Tube Screamer」
前回BOSSの歪みエフェクターをいくつか紹介しようと文章を書いていたつもりが、SD-1で結構な量になってしまいました。次はBlues Driverいくか?と思ったのですが、いやTube Screamer(以下TS)にしようと。ここ10年くらいで一番多い歪み系ってTS系じゃない?と思ったのです。
日本が世界に誇るエフェクターと言えば、きっと名前が挙がるのはBOSS、そしてこのTube Screamerシリーズだと思います。もはや食べ物で言うならばラーメン。派生系の多さ、系統の分かれ度合いなんかがまるでラーメン。そしてラーメンはみんな大好きだ!ラーメン屋さんのない街がないように、TS系のエフェクターがない楽器屋さんもないと思います。もしかしたらどこかにはあるかもしれません、「うちは個性を出したいんでTS系は一切置かないよ」と。しかしそれは、TS系がどれだけ定番かという証明に他ならないわけです。
BOSSの衝撃から2年後の1979年発売
開発は日伸音波製作所の田村進氏。日伸音波製作所はMAXONというブランドを国内で展開していたので「OVERDRIVE OD-808」として、海外ではIbanezとしてブランド展開していた星野楽器が担当しTUBE SCREAMER TS-808」として発売。このあたりは世界でも日本のペダルギークとして名高い細川 雄一郎氏のブランド CULTのページにとても詳しく書かれています。
意外にもかわいい音、からの叫びだすドライブ
特徴はSD-1と同系統のミッドレンジに寄るサウンド。しかし初めてTSをクリーントーンのアンプにつないで踏んでみた人たちは「あれ、気持ちいいけどこんなかわいい音だったの?」と思うかもしれません。分離感もよく、ジューシーな繊細さすら感じさせるナチュラルスムーズオーバードライブ。ありです。この使い方だってもちろんありです。そしてきっと次にアンプで軽く歪ませてからもう一度踏み込むでしょう。
「!!!???」
Fender系のアンプだろうが、Marshall系のアンプだろうが、踏み込んだら最後、気持ちいいとしか言えない極上のドライブサウンドが飛び出します。私は初めて爆音で鳴らした時に確実に気持ちよくなる脳内麻薬が出てました。こんな気持いい爆音があるのかと。ただでさえおいしかったごはんに猛烈な旨味を足されたかのような衝撃。そうなっちまったらもう、どうしようもありません。ギタリストの誰もが一度ははまるTS中毒の始まりです。お嬢ちゃん、世の中には2種類のギタリストがいるんだぜ、それはな、TSを踏むギタリストと、そうじゃないギタリストだ。
レイヴォーンの熱狂とその呪縛
StratocasterとTube Screamerで最も多くの人を熱狂させ、影響を与えたギタリストと言えばStevie Ray Vaughanです。これはもう異論がないレベル。このプレイ、このトーン。Tube Screamerの名に恥じない、まさに真空管アンプの叫び。Stratocasterを使っている人ならば、きっと最初の歪みペダルにはTube Screamerを勧められるでしょう。そしてきっと一緒にStevie Ray Vaughanも知ることになります。Jimi Hendrix直系の衝撃。そして甘い呪縛を体に刻み込まれるのです。ああああああTSきもちいいいいいい、けどこれレイヴォーーーンの音だよおおおおお。もしくは、レイヴォーンと同じ音にしたいのに全く同じにならないよおおおお!自分だけのギターサウンドを追求したい人からすると、あまりにもTSの影響力が大きすぎ、離れたいのにあらがえない魅力のサウンドに歓喜し絶望します。
この気持ちよさの沼から這い出て、あなた独自の極上サウンドを目指すか、もしくはこの沼の中でさらに極上のサウンドを求めるか。それは!あなた!次第!(ローリー様より引用)
膨大なオフィシャルラインナップとインスパイア系ペダル
ギタリストにはしてはいけない話題がいくつかあります。その一つが「TS系のペダルでどれが一番好き?」これです。終電で帰れなくなる覚悟はできましたか?彼は朝までTS愛とその派生機種について語り、ぐでんぐでんに酔いつぶれながらつぶやくでしょう。「でもやっぱりTS-808はいいんだよなぁ。」あなたはきっと無言で静かに席を立ち、すっかり明るくなった街のまぶしさを重くなった瞼に感じながら駅へと向かいます「疲れた、やっと帰れる。もう次はないな」。しばらくして目が覚めた頃、猛烈な頭痛とともに彼も後悔するでしょう、「ああ、またやっちまった…」と。
OD-808、TS-808、OD-9、TS9、OD-820、TS10、TS5、TS7、TS9DX、NTS、VOP9、TBO9、TS808HW
型番ばっかり読んでなんていられないって?おいおい待ってくれよ、まだオフィシャルの現行ラインナップしか言ってないんだぜ?
ビンテージファズの回でも書きましたが、おそらくすべてのTSとTS系ペダルを全部使ったことがある、という人はいないんじゃないでしょうか。存在を把握するだけでも数が膨大すぎておそらく無理です。そしてきっとこれからもTS系ペダルは増え続けます。
原音と歪み音のバランス、倍音の出方、歪みの深さ、本家が、そして数多くのペダルメーカーが、個人作家までが各自理想のTSサウンドを追い求めています。その方法もパーツを一部変更したものから、回路そのものから再考されたもの、ケースの材質まで考え抜いて作り上げたメーカーも。当然ひとつのお店に歴代すべてのTSから派生形までがそろっている、なんてこともありません。
ではどうするか。「飽くなきまで探究しお金をつぎ込みつつTSエキスパートになる」もよし、「その瞬間、これは間違いがないと思ったものだけ1つだけ」もありです。大事なのは市場価格や人の意見よりも自身の手と耳を信じることです。どのTSも派生形も、完成するまで関わった人たちが「これの音が好き!」と決め込んだことは真実です。良し悪しではなく好みだということを忘れないでください。
極私的おすすめTSレビュー
TS808HW
ギター・マガジンでも大人のTSとレビューされていたIbanezから発売されている本家ハンドワイヤード。ハンドワイヤードとは内部の基盤に量産用のプリント基板を使わないで手作業でパーツ同士を配線したものになります。クリアさと艶感、音の枯れ感、音が後ろにひっこまないようなレンジ感が特徴だと思います。どのような使い方をしても、まず間違いのない、誤解を恐れずに言えば万能で不満になりにくいTSというところでしょうか。比較的値段が高めですが、この一台でTS沼から生還できるポテンシャルがあると思います。TSにクリアさと甘さを求めている方へのおすすめ機種。
TS808 1980 #1 Cloning mod. V.2
こちらはHWと対極にあるかのように個人的には感じる、「ビンテージの当たり個体(特殊個体)」をサウンドを追求したモデル。エフェクター専門誌「THE EFFECTOR BOOK」のTS特集で集められた多くのビンテージTSの中で異彩を放った、誰もが音に惚れ込んだモデルをできるだけ忠実に、しかもTSの開発者の田村氏御本人がモディファイするという、マニアお墨付き、開発者のサイン入り、なとても贅沢なコラボレーションモデル。個人的に一番大きく感じた違いは倍音感だったかもしれません。音のジューシーさと倍音感追求型という印象です。ビンテージらしいTSやブースターとして仕様する際の太さとパンチ、ラウドさを求めている方にはおすすめです。
KingTone DUELIST
海外発、かっこいいTS系サウンドのエフェクターと言えば愛用者もとても多いこのDuelistです。アメリカンでダイナミック、ブルージーな人気ギタリストJosh Smith氏の愛用で爆発的に人気が高まったイメージがあります。作り手であるJesse Davey氏がプレーヤーだけあって、ミュージシャンを虜にする音、フィーリングをわかってらっしゃるというか、音のチューニングのセンスのよさをとても感じます。立ち上がりの速さ、タッチに対しての音のレスポンスもまるで弦が手に吸い付いてきてくれたかのよう。レイヴォーン直系と言いましょうか。アメリカンなとにかくかっこいいTS、そしてよりハイゲインなBチャンネルもありますので1つのエフェクターで歪みを完結させてしまいたい方にもおすすめです。Jesse氏が愛妻のKrystalさんと一緒に作っているので生産数が少ないですが、作りがとにかく丁寧なところも好きです。TS系チャンネルだけのSOLOISTもあるよ。
Ibanez TS808
現在のオフィシャルレギュラー品のTS808です。Made in Japan。TSを初めて触る方にとっては「この音好き」、TS沼の玄人さんでも「現行品いい音するよね?」と、とても完成度の高い復刻バージョンという印象です。経年変化をしたビンテージ品と比較すれば新しいパーツの「若い」感じは確かにします。とはいえ、その「若さ」も含めたチューニングのクオリティの高さは本家TSとして裏切ることはありません。よりワイドレンジ感とクリアさを求めるならTS9をどうぞ。
Maxon VOP9
間違いなくTS系ではあると思うのですが、上質といいますか、シルキーと言いますか、TS系がより上品に心地いい音にまとまっている印象です。日本的な素性の良さと言いますか、とにかく音としての質が高く、やりすぎない、けれど作り手の魂はしっかりと感じるかのような。TSの利点も欠点も長い間知り尽くしてきたオリジナルメーカーが現代に問うモデル、玄人のTS沼住人の方々からもとても評価の高いこともうなずけます。とにかく暴れるTS系が好き!という方以外はぜひ一度触ってみてください。
おわりに
TSを知らない方にも、TSを知り尽くした方にも楽しんでもらえるようなコンテンツとして書いたのですが、過去最高の長さになってしまいました。多くのギタリストさんのTSに対しての熱愛、音に対する情熱、そしてエフェクターマニアたちのかわいらしさすら感じる偏愛が伝わり、楽しんで頂けたらうれしいです。