ブックレビュー 02 「ギター・アンプの真実 エレキ・ギターの音色の90%以上はアンプで決まる」
エフェクターのコラムを書いてるくせに完全なるアンプ本のご紹介です。いえ、エフェクターも大好きですがアンプも大好きです。そしてエレキギターのサウンドにおいてアンプの占める割合の高さというのは私自身もとても感じていて、ずっと「アンプの音が7割」って言ってきました。言ってきましたけど、今回は9割以上です。
エレキギターはアンプを通さない生音で使う楽器ではありませんし、実際どのアンプを使うかによってもそのギターの音はめちゃくちゃ変わります。
ちょっと暴論で言うならば、アンプはカレーライスで言えばお米以外の全部分みたいなものです。お米もおいしさももちろん重要。でもカレーライスにおいて大事なのって、どんなスパイスや調味料をどのように使って、どんな具材をどんなサイズで、製法でカレー自体を作っているかですよね。それによってはどんなに質のいいお米を最高の形に炊き上げたとしても、カレー自体の完成度や相性によっておいしくもまずくもなってしまいます。おいしいお米だけではおいしいカレーライスにはならないのです。それがアンプの重要性だと思っています。
私の経験で言えば、例えば50万円の大好きなギターを10万円のあまり好きではないアンプで鳴らすよりも、10万円のあまり好きではないギターを50万円の大好きなアンプで鳴らす方が確実に好みの音になります。もちろんどちらも好きなものを使えるに越したことはないのですが、多くのギタリストは実際に触る「ギター本体」に熱意もお金もかけがちですが、かっこいいギターサウンドを作りたい場合、それは大間違いです。
アキマ氏がサブタイトルで「エレキ・ギターの音色の90%以上はアンプで
決まる」というのもそういうことです。
ありがたいことにこちらの本もKindle Unlimitedにあります。
著名アンプビルダー、アキマ氏による探究のおすそ分け
アキマ氏は言います、ネットにはたくさんの情報が氾濫していて、もはや常識になってしまっているようなことでも間違っていることはたくさんあると。そして同時に、アキマ氏が長年アンプやギターサウンドを研究してきた中でも、いつも常識を疑いながら自身で試して身をもって知ってきたと。
まずもうこのスタンスが大好きです。私もネットの情報を信じるよりは自分の足や耳で確かめろと思う方ではありますので。だったらお前もネットに情報書くなよ!と言われたらどうしようもないわけですが。
長いものに巻かれた方がラクで便利なことはたくさんあると思います。この多数決な世の中なので、多数派に合わせた方がいいことってたくさんあると思うのです。それでも常識を疑い、自分の感性と耳を信じる。そういう生き方はつらいこともたくさんあったはずですし、でもきっとそれが御本人の納得の行く生き方なのだと思います。「他の人は違うって言うかもしれないよ、でもおれはこう思ったし、体験した結果これを信じてる。」っていう人の言葉には美学と重みがあります。かっこいい。
この本は、そんなアキマ氏がきっとたくさんの失敗をされながら手に入れてきた情報と智慧のおすそ分けです。本を読んだだけで知ったかぶってしまってはまるで無意味なのですが、それでもとても価値のある情報なことは確かです。
名機とされるアンプのアキマ流レビュー
カラー写真とともに紹介される名機のアンプレビューですが、マーシャルを使いにくいアンプと言い、さらにオレンジもあんまり好きじゃないとおっしゃる。この時点ですごく面白くなってしまうのですが、マーシャルの見た目はやっぱり圧倒的にかっこいい、とか本当にアンプが好きな人の愛というか、純粋なマニアの姿勢というか、少年らしさというか、色々なものが伝わってきて、読んでいてとても楽しくなります。地域の近所にこんな大人がいるときっと子どもたちや学生さんたちも楽しいだろうなと思います。
真空管アンプに関するアキマ氏が体験してきた真実を教えてくれる
タイトルが「ギター・アンプの真実」なので、実際に数多くのアンプを修理、メンテナンス、制作してきた中でのアキマ氏の真実を教えてくれます。真空管は本当にへたるのか?ビンテージアンプは本当に壊れやすいのか?ハンドワイヤードは本当にいいのか?などなど、実際にアンプの回路自体を理解し、制作したり中をあけて修理できる人ならではの見地で書かれています。
アンプが90%、さらにスピーカーユニットが50%
こちらの本にはスピーカーユニットについてもとても細かく書かれています。そして面白いと思ってしまったのが、ご本人がアンプ製作者なのに、基本的に販売されているか既存のものを使うしかできないスピーカーユニットがアンプにとってとても重要で、50%は関係すると言い切ってしまっていること。おれの作るアンプの回路は他と違ってすごい、とかではないんです。
さらに真空管レビューも
最近ではすっかり値段が高騰してしまって、手軽に買いにくくなってしまったデッドストックのアメリカやヨーロッパの真空管についてのレビューもあります。このあたりもとても参考になる保存版の情報です。
バンドの中でのギターの音作りについてもとても詳しく書かれています
「1人で弾けばいい音」というのはギターにしてもアンプにしてもエフェクターにしてもとてもよくあることで、でも実際にバンドの中に入った時その音がどう生きるか死ぬかという部分は、ミュージシャンでも経験則で学んでいくしかない部分が大きな比重を占めていると思います。そこに対してもアキマ氏は多くのヒントやご自身の考えを本の中に書いてくれています。軽音部やバンドサークル、ライブやレコーディング未経験者の方々にはすごく役立つと思いますし、経験者でもきっと発見があると思います。
そして何よりアキマ氏のアンプはかっこいい音がする
結果が全て、とは思わないのですが、とにかくAKIMA & NEOSのアンプやエフェクターはかっこいい音がするのです。アキマ氏ご本人がロックに対して情熱を燃やし、さらにミュージシャンでもあり、自身のバンドで長年それを研究していらっしゃったわけで、それは如実にアキマ氏の作る製品に現れているわけです。
私はアキマ氏の発言や著書を知る前に先に製品を知ったので、とにかくやたらかっこいいロックな音のする機材ばっかりある謎のブティックメーカー、という印象でしたが、ご本人の言葉を知るたびにとても納得がいきます。
アキマ氏の作るものは「とにかくロックな音がする」と面白いくらい同じことをどこの楽器屋さんでも言われます。機材によって人の感じる印象は様々ですし、店員さんの好みも様々なので、感想が共通していることって結構少ないんですが、笑ってしまうくらいみなさんが「ロック」と言います。そして私もそう思います。
プレミアがつかないように
アキマ氏の他の著書は廃版になってしまってプレミアがついているものもあります。今回も貴重な情報がたくさん書かれている本なので多くの人が手に取りやすい環境にとても感謝しますし、それが続いてほしいなととても願っています。
アキマ氏関連動画
おわりに
ギタリストならばこの本には必ず役立つ情報が書いてあるはずです。私はKindleで読んだのですが手元に実物の本を置いておきたいくらいです。エフェクターのコラムばかり書いていますが、アンプもまたとてもディープで楽しい世界なので、そのためのガイドとしても是非読んでみてください。