エフェクターコラム11 「Overdriveの色々な使い方」
コラムの数もだいぶ増えてきましたが、まだまだ書きたいことはなくなりません。今回は、種類や機種なんかはそれなりに紹介できたとは思うのですが、実際の活用方法についてはそこまで具体的に触れてこなかったのでまとめてみようと思います。今回もよろしくお願いします。
エフェクターの種類はたくさんある中で、もっとも色々な使い方を出来るのがオーバードライブペダルです。シンプルなのに使い方も幅も奥深い。そのあたりを知ってもらえると、よりペダルのポテンシャルや感じ方の幅が広がると思って書いてみます。内容的に重複する箇所もありますが、わかりやすさを優先して一つずつ出していきます。
その1 クリーンなアンプからの歪み目的として
まずはもうほぼ説明不要のこちら。アンプをクリーンに設定して、好みの歪みを出してくれるペダルで歪ませるパターンです。以前はエフェクターっぽい音になる、音が細いなどの理由で避けられていた気もしますが、最近はアンプはクリーンで、歪みはペダルで、という人が増えてきている印象です。
イントロから一気にペダルを踏み込んで歪ませる名曲と言えばこちら。※踏み込んでいるのはオーバードライブではなく、より歪みの深いディストーションです。
その2 クランチ状態のアンプからのブースターとして
昔から使われる一番の方法がこちら。アンプで少しだけ歪むくらいの音質(クランチ)にオーバードライブの歪みでプッシュするパターン。アンプ本来の音の太さ、ガッツがある状態でさらに好みの音質にできるいいとこ取りのやり方です。
0:32あたりでTube Screamerを踏み込んでブーストするレイ・ヴォーン様。
その3 クリーンブースターとして
アンプの歪み量には干渉せず、エフェクターを通した結果の音質向上を狙って使うパターンです。音にハリが出る、音が太くなるなどクリーン状態で踏み込むだけで欲しい効果を追加してくれるペダルはたくさんあります。原則として歪みは加えないでエフェクター側のDriveはかなりしぼった状態での使われることが多いです。Centaurなどのペダルでもよく使われる方法になります。クリーンブーストに関しては、オーバードライブではなく「クリーンブースター専用」として開発されているものもあります。
クリーンブースターの名機Fat Boost、踏むだけで一段階ぐおんと音が太くなり、さらに歪み量も上げられるというハイブリッド機。
その4 プリアンプとして
その3と内容が重複するのですが、こちらはエフェクターによる音質変化を完全にかけっぱなしで使うパターン。必要な時に踏み込んで音質を変化させるというよりも、エフェクター自体の音を自身の「基本の音」にしてしまうというか、常時オン、ふみっぱなしというやつです。こちらも商品名がオーバードライブではなく「プリアンプ」となっていて常時かけっぱなしが想定されている機種などがありますが、基本的にはオーバードライブ系ペダルと同じものだと考えてもらっていいと思います。
かけっぱなしで使う人が多い、もはや定番と言ってもいいくらいの大人気機種、EP Booster。
その5 ソロや曲中での音量変化用に
雑誌のインタビューなんかで目にする「ソロの時に踏み込む」というやつです。曲中でギターの音量を「ここだけ大きく」もしくは「ここだけ小さく」したい、さらに歪み量も変化させたい場合に踏み込むと一瞬で狙った音量、音質にできるというパターンです。こちらは「イコライザー」という音量や音域を変更させる目的の専用エフェクターもあるのですが、オーバードライブでも対応可能な部分でもあります。
2:16あたりでCentaur(かな?)を踏み込んでソロを弾くSuspended 4thの澤田誠也氏
その6 バッファーとして
エフェクターを通すことで電気信号の強度をあげる、というパターンです。
本来ギターからアンプに直でつなぐ場合、電気信号はハイインピーダンスという、外部からの影響をとても受けやすい信号になっています。例えばライブハウスの照明やそれ以外の機材からの電磁波、さらにはシールドの長さによる音質の劣化など、ハイインピーダンスの電気信号はとても繊細で扱いに気をつけなければいけないものでもあるのです。
エフェクターを通すことで外部からの影響を受けにくいローインピーダンスの信号に変化させると、より安定した電気信号になってくれます。つまり、外部からのノイズの影響も受けにくく、ケーブルの長さや材質からの音質劣化もかなり減らせます。
インピーダンスというのは、交流抵抗という「交流の電気信号を邪魔するもの」というイメージをなんとなく持ってもらえるといいと思います。ハイインピーダンスなら邪魔されやすい、ローインピーダンスなら邪魔されにくい、という感じです。
ゲームなどでもキャラクターを強化するスキルや魔法のことを「Buff(バフ)」と言いますが、本来のBuffは緩衝材という意味のようです。なので信号を強化してくれる、というイメージでもいいのかもしれないですが、信号をノイズや減退から守ってくれる「緩衝材」のような意味でのBuffer(バッファー)なのかも知れません。
またこちらもオーバードライブだけではなく、完全なバッファーとして開発されているペダルもあります。それ以外にも、例えばバッファー回路が特に優秀と言われているCentaurやPete Cornishのペダルなどはその「バッファー部分だけ」のクローンペダルなどもあり、なかなかディープな世界になります。
だったらいいことしかないじゃん、と思ったバッファーの弱点について。ローインピーダンスの電気信号はどうしてもハイインピーダンス時のものと音質が変わります。最近のものは「とにかく音質変化が少ない」「音が太くなったり多くの人にとって好ましい変化になっている」ものが人気ですが、原音を変えたくない!という人にとっては困るものでもあります。
また、基本的にエフェクターを通すと電気信号はローインピーダンスに変換される、と思っていて大丈夫なのですが、エフェクターの種類によっては通してもそこまでインピーダンスが下がらない、という物もあります。バッファー専用機でもどれくらいのインピーダンスに変化するかは機種によって違います。
そして、これが一番気にする方が多いことなのですが、ファズのようなエフェクターは回路設計的に、ローインピーダンスの信号が入力された場合とハイインピーダンスの信号とでオンにしたときの音質がかなり変わってしまうものもあります。Fuzz Faceなどはハイインピーダンス状態の信号を入力したほうが好きな音がする、とペダルの先頭に入れる人も多いです。ただしペダルの先頭にファズを入れてしまうと音質劣化が…など、インピーダンスはプレーヤーをそこそこ悩ませてくれる問題でもあります。(そんなFuzz Face用のインピーダンスが下がりすぎないバッファーなんかもあります)
ただしインピーダンスもノイズなども全ては使い方次第。ノイズが絶対悪、音質変化が絶対悪、などではなく、ノイズが出したくてギターを買った、音質がしょぼくなるこの音が好き、ということももちろんありますので。
不協和音からノイズ、フィードバックまで使いこなすSonic Youthの名曲。
使い方も組み合わせ方も自由
わかりやすいように機能を分けて並べてみましたが、実際に使っている場合、オーバードライブペダルは「バッファーとしても使ってるし、かけっぱなしでプリアンプ的にも使ってる」「ソロの時に音量もあげているし、ブースターとして歪み量も上げてる」などの機能の合せ技になっています。
エフェクターを使う時に、こんな使い方もできる、あんな使い方もできたんだった、と理解できていると、より幅広く使えたり問題解決にも、はたまた「君にはまだこんな使い方ができたんだね!」と発見にもつながると思います。
先程も書きましたが、おすすめのスタンスとしては「デメリットを全部デメリットだとは思わない」こと。使い方、見え方、考え方の違いでデメリットがメリットになることはたくさんあるはずです。
昨今のLo-fi Hip Hopなどでカセットテープのようになっている音なども、好きな人からしたらあの感じが心地よいしおしゃれ感ある、ですが、デメリットという見方をしてしまえば「あえて音質を悪くしてなんの意味があるの?」となってしまうので。
Lo-Fiミュージックの代表的バンドとしても知られるBeat Happening、大好き。
おわりに
実際に使ってる人からすれば、「そんなの当たり前でしょ、知ってるよ」な内容だとは思いますが、「なんでそんなみんな歪みペダルばっかり欲しがるの?」「1個あれば十分でしょ?」なんて思う方に伝われば。いっぱい欲しいの。今回も楽しんで頂けたらうれしいです。
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