エフェクターコラム04 「Overdrive 概論」
さて前回はいきなりギークでディープでカルトな内容でしたが、今回はもっとオーセンティック、オーソドックス、スタンダート、オーガーニック。みんな大好きエフェクターの基本の「き」、overdriveについて書いていこうと思います。というわけで、2種類あるうちの「アンプの音量をあげすぎてオーバードライブさせた歪み」の方です。
エレキギターと練習用アンプを手に入れて、次に多くの人が欲しくなるものがoverdriveだと思います。もちろん、歪んだ音というのはアンプだけでも作れます。作れるのですが、アンプだけを使っていると、もうちょっとこうだったらいいのにな、というポイントが練習しているうちに出てくることが多いのです。
まるで初めての料理の時にはレシピどおりに料理を作ってみて、おいしくできた!と喜んでいたものが、何度か作っているうちに、もうちょっとこういう味のほうが好みかもしれない、こうしたいな、と思ってくるかのように。そんな時にまず選択肢にあがるのがこのoverdriveだと思います。Fuzzほど強烈に味付けを変えないまでも、好みのものを繋げば確実に心地よく、より好みにしてくれる、Fuzzをマヨネーズやバーベキューソースだとするならば、overdriveはハーブソルトやかつおぶしとでも例えましょうか。こちらはFuzzのようにディープでカルトな世界珍味紀行よりは、シンプルな食材と調味料で作る心がほっとするしみる味のような、Tシャツとデニムだけの定番ファッションでどう見せるかのような、ステーキをどうおいしく焼くかのような、また違う方向性で奥が深い世界になります。
それでは今回もoverdriveサウンドの歴史からいってみましょう。
overdriveという「アンプをオーバーロードさせたサウンド」の歴史は諸説ありますが、こちらの1966年のアルバムの録音でEric Claptonが1958年のLes Paul Standard(通称バースト)とマーシャルのアンプで作ったものが起源とされます。なんともブルージー、渋くてスモーキーかつラウドなサウンドですね。このEric Claptonの発見したオーバーロードサウンドからロックの歴史は歪ませたギターロックの時代に突入していくとされます。
こちらは1969年、スラブボードの1959年製Telecaster、Suproのコンボアンプ、前回でも紹介したTone Bender Mk2を組み合わせたサウンドと言われています。この一発目のEのコードがもうたまらなくかっこいい音!!私にとって大好きな理想のサウンドの1つです。
アンプのドライブサウンドの魅力はFuzzのような太さ、荒々しさ、攻撃性、とはまた違った、かっこよくて激しさもあるのに、暖かく甘くナチュラルとさえ例えられる音にあると思います。荒々しくて男っぽいんだけど二人だけになるとロマンチックになる彼、外だとツンツンしてるんだけど帰ってくると甘えた猫のようになるあの子。モテ要素ばっちりです。
こうしてアンプをオーバーロードさせたサウンドは世界を席巻していくわけですが、アンプで作るドライブサウンドには大きな欠点がひとつありました。アンプのボリュームを無理にあげる=爆音になっちゃう問題、これです。当時はライブや大規模化やフェスの開催などでそれ以前よりも求められる音量はどんどん大きくなっていき、ミュージシャンたちもより出力の高いアンプを求めていったとされ、どんどん爆音化していきます。
私も子供の頃初めて映画館に連れて行ってもらったときには、大きなスクリーンからの映像とともに爆音が鳴るのでとてもびっくりしました。そして成長とともに大きな音にもそこそこ慣れたかなと思う頃、初めてライブに行ってみたら、それ以上の爆音です。うおおおすごい!と同時に、え、こんなうるさいの…と。終わってから外に出てみたら耳鳴りがしていたり、まわりの雑音がやたら静かに聞こえるあの感じ。
当時のミュージシャンはライブ用には大きな出力のアンプ、レコーディング用には小さな出力のアンプの音量をあげて歪ませたサウンドでレコーディングをする、などもしていたようですが、大きな出力のアンプと小さな出力のアンプでは、当然音も違うわけで、きっとそれに悩むミュージシャンたちも少なくなかったと思います。
そんな中、ご近所迷惑小音大国ニッポンが立ち上がります。時は流れて1977年、BOSSが世界初のoverdrive「OD-1」を発売。
開発コンセプトは「チューブアンプをドライブさせた音を小音量で再現できること」。これが当時から世界的な人気ギタリストだったジェフ・ベックの使用で大ヒット。そして多くのメーカーが追従し、空前のoverdriveペダルブームが始まります。
読んでいただいている方々はここでひとつ、「え?ハーブソルトじゃなかったの?」と先程の文章と違和感を覚えると思います。そうなんです。当初は「小音量でも歪ませたアンプの音に!」が売りで、歪ませたアンプの音をよりプッシュして好みの音にする、というのはその後にできた流れなのです。
当時OD-1を手に取ったミュージシャンたちは発見します。
「あれこれ?ペダルだけで歪んだ音を作るより、アンプで軽く歪ませてペダルでブーストしたらすごいかっこいい音してない?」
これが俗に言う、「overdriveのブースター使用」の発見です。そしてどんなギターでどんなアンプを鳴らし、どんなoverdriveでブーストするか、これがバンドサウンドの個性、ギタリストの「オレだけの音」、ウチの店の秘伝のタレ、となっていき、後世に「ハーブソルトの夜明け」として語り継がれるように、嘘ですごめんなさい。
どうあれ実際にoverdriveはブースター使用がメインになり、数々の伝説の音楽の隠し味的要素を担うようになります。
さらにここ10年ほどでしょうか。今度は逆にライブハウスなどの音響システム(通称PA)の進化を理由にミュージシャンたちのアンプからの出音はどんどん小さくなっていきます。その流れの中で
「いや、おれブースターみたいにペダルを使うより、アンプはクリーンにしちゃってペダルで歪ませたほうが好きだわ」
あれから30数年、BOSSが開発コンセプトとして掲げていた本来の使い方が見直され、多くのミュージシャンにとっても「アンプはクリーン、歪みはペダル」勢が増えていくことになります。もちろんブースター勢も健在です。
ギター初心者の小さな願いを叶えてくれるところから、大物ミュージシャンさえ「理想のペダル探しの沼」にはめ込む、優しくてコケティッシュなあの子。もしくはとっても親切なのにたまにドSな先輩。これがoverdriveです。どうですか?こんな魅惑的なナイトプールで、みなさんも私達「ペダル亡者」たちと楽しく過ごしてみませんか、アハハハハ、アハハハハァ
さてoverdriveはこんな素敵なペダルだよ、というのを十二分にご理解頂いたところで、次回は主要なoverdriveの紹介なんかを書いていこうと思います。お楽しみ頂けたならば幸いです。
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