エフェクターコラム番外編02 「理想の音に近づくために その2」

憧れのミュージシャンと同じ機材を揃えて見ても、あの人のあの音は出せない。今回はそんな絶望からの再生、新しく生まれる道の物語。

初恋。誰しもが一度は直面し、戸惑い、これだけは大切にしようと胸に生きようとするものの、いつしか失ってしまうもの。だからこそ、それは何より貴重で美しいとされ、多くの人に憧憬を持って価値とされる。

初恋が続いている人ってどれくらいいるんでしょうか。余談ですが、私は売れたりしてもずっと同じギターやアンプを使っているミュージシャンを無条件で尊敬するようなところがあります。きっと家族や友達、恋人もとても大事にしているんだろうな、と思ってしまうので。

「憧れのあの人のような音が出したい…」

ギタリストとしてのそんな初恋が見事に打ち砕かれたとしても、人生は続いていきます。Life goes onってやつです。あなたの周りには、そのために集めた素敵な機材、何よりも宝物のギターだってあります。しかし絶望の淵にある今のあなたには、それらはもう魅力的に映らないかもしれません。

だとしても、だ。忘れないで頂きたい。魅力的に思えないのはあなた自身の精神状態の問題であって、ギターや機材たちではないのだと。その一つ一つが、誰かが丁寧に作ってきた、誰かが世に出したいと思って作り上げてきたものなのだと。もう一度その楽器を鳴らしてみよう。本当にその音は、魅力のないトーンですか?

「だってこんなのあの人の音じゃないじゃん!細川さんだって全然違うって言ってたのに!」

わかるよ、わかる。確かにその音はあの人の音とは違うかもしれないよ、でもその音は確かに君が歩いてきた道で作られた、君のトーンだ。僕はそれをかっこ悪いトーンだなんて思わないさ、むしろ僕はその音がジョン・フルシアンテの音より好きさ、だって僕は君のことが…。

「先輩…わたし…」

なんですかねこの話。でもこういうことだと思うのです。あの人と同じ音を、あの曲を弾いてみたい、そうやって歩いてきた道は、確かに「全く同じ音を出す」ことはできなかったし、その結果だけを見れば「無駄」だったのかもしれません。しかしそのためにあなたはギターを練習し、慣れないTab譜やYoutubeを凝視し、楽器屋さんに出かけ、帰りにエクセルシオールでまた憧れのあの音をスマホから聞き直し、家でも練習してきました。その積み重ねは確実にあなたの耳と腕を成長させているのです。

「学ぶ」の語源は「まねぶ」「真似る」であると言われています。誰だって最初は真似ることから始まるのです。そして真似ることで積み重ねてきたものが、いつしかあなた自身のものとなり「あなたの音」となるのです。そう、あなたはもうギタリストとしてのネクストステージに立っているのです。「真似」ではないあなただけの「個性」の道。違いなんてものはそれに気づくか気づかないかでしかありません。

恋は盲目とはよく言ったもので、それに気づいたあなたの視界は一気に開けていきます。あなたがSD-1やDS-2、WH-10やCE-1にしか興味がなかった頃には目にも入らなかった多くのエフェクターたちが、楽器屋さんの棚に。ピックコーナーだって今まであなたは0.6mmのトーテックスしか興味がなかったはずです。めくるめく音楽の世界はいつだって本当はあなたの目の前にあったのです。

多くの人にとって憧れるシグネイチャー・トーン。しかし、それを持つギタリスト本人たちから見れば、「その時のその音」でしかないのも実情です。彼らも常に、彼らにとってより理想的で魅力的なサウンド、プレイ、音楽を追い求めています。到達点などというものは最初からなかったのです。みんな同じ旅の途中に変わりはなく、険しくも楽しいずっと続くただの道でしかないのが真実です。

それでもおれはあの人と同じ音が出せるまで機材もプレイも追求するぜ。

SD-1の音も好きけど、せっかくストラトだったらTS系のペダルも使ってみようかな。

今までもフェンダー系だったけど、ほんとはもっと太いロックな音も出してみたかったからレスポールを弾いてみたいな。

DS-2じゃなくてRATはどうなんだろ、ピザ屋さんで働いてグレッチを買おうかな。

全部ありです。そしてそんなことを繰り返していたら、そのうち周りの誰かから「あの人のギターやばいかっこいい音してる」と言われることがあるかもしれません。それはまだあなたにとっては「理想の音」ではないはずです。でもきっとそれは最早誰かにとってのあなたの持つシグネイチャートーンになっているのです。



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