ブックレビュー 01 「エレクトリック・ギター革命史」
エレキギターの歴史本なんて、ギターに興味がない人なんて読んでも面白いわけないよね、いやむしろギターを好きな人だって歴史本なんて読みたくなるのは一部のマニアじゃないの…。そう思いますよね?私もそんな感じでAmazon Unlimitedにあったので読んでみたら、これがもう読み物としてめちゃくちゃ面白かったのです。
エレキギターという楽器がなぜ、どのように開発され、どんな人たちがどんな情熱で夢に挑んでいったか、100年を超えるプロジェクトX
歴史物でも映画やドラマになっていると面白く見られたり、同じようにニュースは退屈だけどドキュメンタリーだと関心を持って見られたりという人は結構多いと思います。結局それはなぜかというと、勉強だったりお堅いものに対してのアレルギーじゃないかと思うんです。要するに、楽しくないんだもん、ってやつですね。
大丈夫、まずこの作者さんの話は面白いんです。そしてさらに、当然のことながら登場人物たちが面白い。エレキギターという前代未聞の楽器に挑んでいく発明家のオタクから気骨のある職人、荒くれ者のロックンローラーまで勢ぞろい。そんな人たちが夢に対して人生をかけて挑んだドラマ。こう思ったらもうテーマがギターじゃなくてもいいんですよね。
とはいえ、面白いだけじゃないところは、この作者が世界一の音楽雑誌Guitar Worldの編集長を25年やっていただけあって、集められる資料、ネットワーク、持っている裏話なんかの量が半端ないこと。面白いのに研究もばっちり。学校の歴史の教科書がこんな風に書かれていたら、もしくはこんな先生が歴史の授業をやってくれたら、勉強が楽しくなる人もたくさんいただろうにって思います。
当時の音楽シーンの雰囲気をまるで覗き見しているような文章
何かが起きるには必ず原因があります。エレキギターが発明されたことも当然理由あってこそのものでした。ではその理由は?となった時に必ず世間的な状況というものがあると思います。この本の好きなところは、そういった当時の社会的状況や世相をとてもわかりやすく書いてくれているところ。
645年に大化の改新がありました、って言われても、あったのはわかったけどなんでよ、としか思いません。でもそこにある背景や物語性がきちんと見えれば、何事も読むに値するものになるはずなんです。まして登場人物が魅力的ならばなおさらです。
音楽のジャンルなんか知らなくても大丈夫、知っていればなおさら発見が
音楽に対して多くの人が避けてしまいがちな傾向の1つが「私音楽のことそんなに詳しくないし、わからないし…」、これもきっとアレルギー反応のひとつだと思います。ジャンルの話をされても何がなんだかわからない、人物名なんかなおさら知らないし、会話にどうついていったらいいかもわからないよ。
大丈夫です。この本に成り立ちから何から物語として書かれてますから。楽しんでもらったら、へー、そんなに当時すごかった音楽ってどんなだったんだろう?すぐにYoutubeで検索してみましょう。きっと発見や新しい体験があって、好きになるものもあるかもしれません。
いやいやもうロックの歴史とか知ってるし、なんなら70年代からの現役なんだぜおれは、って人もきっといるでしょう。それでも断言します。あなたの知らないことがここには書かれているし、きっと夢中になって読んでしまうはず。なんなら若い頃のことを思い出しながら昔の仲間とまた一杯、なんてしたくなるかもしれません。
辞書みたいに分厚いけど、実際読んでみたらもっと読みたくなる
130年の歴史を一冊の本にまとめる時点でまぁ無理があるだろ、とは思うのですが、むしろ544ページにこれをまとめられたことにびっくり。そしてこの物語を楽しんだ人だったらもっと読みたくなるはずです。
あまり深く紹介されていないことだっていろいろあると思います。例えば私が思ったのは90年代のグランジ、オルタナムーブメントについて。このあたりはさらっと触れる程度だったので、あと500ページくらい増えて紹介しきれなかったエピソードをどんどん追加してくれればいいのに、くらいに思います。
特に昨今のジャガー、ジャズマスターリバイバルなんかは90年代リバイバルの影響も感じますし、ギター・マガジンなんかでも特集されているので。
とは言えそれも大まかな流れはこの本が提示してくれているので、この本で紹介されていなかったムーブメントなんかも補完しやすいと思います。
海外のポピュラー音楽のことを知りたくなったらまずこの一冊
この本はあくまで、エレキギターという楽器の戦いの歴史を軸にしたポピュラー音楽の歴史本かもしれません。ただしほとんどのポピュラー音楽において、エレキギターという楽器が欠かせないものでもあるのは事実です。昨今の状況の中、手軽に読める選択肢として、この本はまず最初の一冊としてもとてもおすすめだと思います。海外のポピュラー音楽の大きな流れを知るにも最適です。
本書の原題は「Play it Loud」、「でかくかき鳴らせ」って感じでしょうか。読み終わったあとに原題を知ると、確かにそっちの方が合ってたよね、とは思うのですが「でかくかき鳴らせ」っていうタイトルで辞書に分厚い本が並んでいてもなかなか伝わりにくいものはあると思うので、翻訳された方の苦労を偲びます。