敗北宣言
ロニ×ナナリーの小説です。
ロニ視点で、初恋を設定しています。
「ナナリーってさ、なんだか母さんに似てるよね!」
隣で弟分がいつものように喋っているから、いつものように聞いてやっていた。なにが美味かったとかなにを見たとかだとかそんな世間話だったはずなのに、なにをどう間違ったか耳を疑う発言が飛び出した。
「はぁ!?おまえなに言ってんだカイル!」
俺は大声なんて気にする余裕もなく、カイルにつめ寄った。すると、逆に目を丸くして首を傾げられてしまった。
「え、なんか性格とか口調とか似てない??極端なこと言うと、フィリアさんとは全然違うっていうかさ」
「いや、そりゃフィリアさんとルーティさんが似てないのは分かるんだけどよ、なーんでそこにアイツが出てくるんだよ!?」
「だって俺、ナナリーがいると孤児院にいるような気分になる時あるし」
「なんだよ、ホームシックかよ…まだまだお子ちゃまだなぁ〜、カイルくんは」
そう言って内心どこかホッとしながらカイルの頭を強めに撫でる。すると、ムッとしたように少しだけ頬を赤くしたカイルがその手を振り解く。
「ち、違うよロニ!俺はただナナリーは将来いいお母さんになるだろうなって思っただけだよ!!」
それは俺も正直、ホープタウンでアイツと出会った時から感じていた。弟がいたこともあってか、アイツは面倒見もいいし、料理も上手い…認めたくはないが。ん?待てよ…料理上手に腕っ節も強くておまけに面倒見もいいっておい!なんかだんだんとルーティさんに似てきてねぇか!?いやいやいやありえねぇだろ!!
「ねぇ、ロニ。そんなに頭振って大丈夫?」
俺が一人葛藤しているとは露知らず、コイツは目の前の挙動不審な俺を心配してくる。…頼むから、今はほっといてくれ。
「な!だ、大丈夫に決まってんだろ!!アッハッハッハッハーーッ」
そう?ならいいや、とありがたく誤魔化されてくれた素直なカイルに感謝して俺は盛大なため息をつく。横目に少し離れた場所で鼻歌を歌いながら料理をしているナナリーに目を向ける。
(アイツのどこが麗しきルーティさんに似てるって言うんだよ…ーーアイツも気風がいいもんな)
リアラになにやら呼ばれたらしいナナリーが笑顔で返事をしている。
(ルーティさんは怒った分、褒めてくれたし…問答無用で人のことボコボコにしたりしねぇ…ーーいや、俺がアイツを怒らせてるのか)
ずっとなにやら秘密の研究漬けだったらしいハロルドが空腹の限界で、隙あらば味見をしようと試みてはナナリーに咎められるのを繰り返している。
(ルーティさんはキリッとしていて美しい…それに比べてアイツは男勝りで女っぽさなんてカケラも…ーーアイツ、笑顔はもちろん怒った顔も泣いた顔も…美人なんだよな)
いよいよ完成する直前なのか、ナナリーに呼ばれる前に食器を用意し始めたジューダスを見習ってカイルも手伝い始める。席についたリアラは先程の件でふてくされているハロルドを宥めている。
(って!俺、さっきからナナリーのことだんだんルーティさんに近づけてねぇか!?おいおいおい!!〜〜〜)
否定すればするほどナナリーがルーティに似ているというカイルの言葉を肯定してしまっている自分に驚き、赤くなっていく顔を片手で覆い隠す。
「…分かってるんだよ、本当は」
本日2回目の盛大なため息をつく。項垂れてる俺の頭をポコンとお玉を手にしたアイツが痛くない強さで叩いてきた。
「なにしてんの、ロニ!みんな席についてるんだから早く座りな!」
手の隙間から見上げると、ナナリーが眉を吊り上げながらもどこか気遣わしげに口調はいつものままで告げてくる。俺は密かにその顔に見惚れた。そんな俺の腕をナナリーは席へと引っ張って行く。…ああ、そうだな。
「ーー俺の負けだな」
「はぁ?なにわけ分かんないこと言ってんのさ?ご飯冷めちまうだろ!ほらほら、さっさと動く!!」
分かった分かった、と降参して俺は席についた。隣のカイルから歓喜の声が上がる。
「おおー!今日も美味そうー!!」
「だな」
そのカイルを見ながら同意したところでナナリーの声が響いた。
「はい、いただきます!」
続いてそれぞれが挨拶をして食事が始まった。食事中もせわしなく周りを気にかけたり、屈託なく笑うナナリーにさりげなく目を向ける。いつのまにか自然にフッと笑っていた自分をカイルが肘で押してくる。
「な?やっぱり似てるだろ??」
「!」
コイツは俺が見ているのに気づいていたのか!?いや、それともこの笑顔はまったくなんにも知らない無邪気さゆえなのか!?…ったく本当、スタンさんに似て基本分かりやすいくせに、どこか分かりにくいところのあるヤツだぜ。こういうところはルーティさんの方が分かりやすいな。…だが、これじゃ兄貴分としての面目が丸潰れじゃねぇか!俺はコホンッと咳払いをして少しだけでも鼓動を落ち着かせてから言葉を紡いだ。
「あ?おいおい…まだそんなこと言ってんのか?寝言は寝てから言えよ!」
おそらく予想外だった俺の返答に、なんだよー!とポカポカ殴って抗議してくるカイルの頭を押さえつける。しばらくして敵わないと諦めたらしいカイルは食事に向き直った。ナナリーの料理を見つめた俺は、勢いよくスープを掬って口に運んだ。
…ったく、なんでおまえそんなに似てるんだよッ!勘弁しろよな…!
食事を次々と口運んで火照った頬と上がった口角には気づかないふりをした。
END