仁亜の助手

金色のコルダ3・支倉仁亜(ニア )の小説です。

日差しが眩しく輝いている夏、巷では全国学生音楽コンクールなるものが開催されているらしい。

ふむ…この暑い中、ご苦労なことだな。
夏休みに入る少し前、私が住んでいる菩提樹寮に2人の住人が増えた。
1人はオーケストラ部部長である如月律の弟で、名を響也というらしい。
…よく吠える犬のような奴だ。
フッ…冥加も見事なニックネームを付けたものだな。
おっと、脱線したな。戻ろう。
もう1人は女子で、名を小日向かなでという。
どうやら如月兄弟の幼なじみらしい。
なんというか…ポワンとした性格で、ほっとけない存在だ。
まぁ、とにかくその2人がこの菩提樹寮、星奏学院にやって来てからというもの…賑やかになった。
…悪くない。ネタに困らないからな。

いつものようにカメラを手に、軽やかな足取りで部屋を後にした。廊下の突き当たりに置かれているソファー…目当ての場所はそこである。涼やかな風が通る、昼寝にちょうどいい絶好の場所…そこが私のお気に入りスポットだった。今日もそこで休もうと思っていたのだが…
「ん?ーーおや」
ソファーの上には、寝転んでいる1匹の黒猫。どうやら寝入っている様子。
「先客がいたのか…やれやれ、参ったな」
そう言いながらも、本当はそんなに嫌な気はしていない。
「しかし、私が近づいてもおまえはまったく目を覚まさないんだな」
気づいていないのか、警戒心がないのか、はたまた安心しているのか…?
「ふふっ、おまえと私は似ているのかもしれないな…」
そう呟いた時、猫が目を開けた。さすがに多少、面食らったが…まぁ、そんなこともあるだろう。私は微笑んでささやく。
「ーー起こしてしまったかい?ふふっ、そんなつもりはなかったんだ。許してくれ」
すると、まるで問いかけに答えるように、鳴きながら体をすり寄せてきた。猫は嫌いじゃない。
「おまえもここで涼をとっていたのだな…ここはいい場所だろう?だから、あまり他の奴に知られたくないんだ…私たちだけの秘密だぞ?」
口元に指を当てつつ、もう片方の手で猫の頭を撫でながら言い聞かせるようにすると、猫はにゃーと鳴いた。まさか、本当に私の言葉が分かっているのか?なんだかおかしくなって笑みが深くなってしまう。
「ふふっ、ものわかりのいい子で助かるよ」
エントランスやリビングの方から賑やかな音がする。寮が騒がしくなってきた証拠だ。
「さあ、今はここを譲ろう。私はしなくてはならないことがある…なにかスクープの匂いがするのでな」
賑やかな声のする方へ足を進み始めたものの、ふいに足元になにやら気配を感じて視線を向けた。見ると、さっきの黒猫がこちらをなにか言いたげに見つめているではないか。私は意思をくみとってみた。
「ーーそうか、おまえも共に行きたいのか。いいぞ、構わない」
猫は嬉しそうに笑ったようだ。どうやら合っていたようだ。
「…なんなら私の代わりをしてくれても構わないのだが。ちょうどあのソファーで寝ていたいところなんだ」
猫が怪訝そうな顔をしたようだな。…まったく、おまえ本当は人間じゃないのか。まぁ、いいさ。なんだか楽しいから。
「ふふっーー冗談だ。そう真面目にとらないでくれたまえよ。立派に私の助手を務めてくれ」
猫はにゃーと嬉しそうに鳴くと、先を歩く仁亜の後ろについて行った。

まさか自分がネタになろうとは思わなかったが、どうやら私に助手ができたようだよ。

END

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