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26 詩篇 クロスジョイント
クロスジョイント
山上から
おりてきたら
友は いませんでした
犬も いませんでした
ゆく雲に ききました
わたしの旅はながかったでしょうか
荷を負い背をまるめてあるくうちに
見ていたのは じぶんの足だけでした
みまわすとときが たっていました
私がなしえたことはどれほどあったかと
しびれる掌を 開いてみます
掌はわたしに ときの過ぎ去ったことを告げ
私はゆくてをみます
野辺の草は丈たかく
林檎がたわわに実っています
長いかがやく光がまだそこにあり
わたしは 終わりかけていました
うしなったものにおののき
やってくるものに
おそれをなしてすくんでいました
思い出の美しさに涙を流していました
それでも林檎は実り
たわわなときは今でした
のぼっていたときに
空は青かったのを忘れていました
林檎は色づき 風が吹いていました
また あるきはじめます
わたしが たふれても
笑って海に流してくれといった若い友
余命宣告5ヶ月といったときのほほえみが
浮かんでいます
海の上にひろがっていきます
甃に散った 別のひととあわさり
聲となって対岸へ走ります
むこうはナホトカです
燃える夕陽が 雨雲ごしに
山に虹を 投げかけます
鈍色の空にはっきりしない
半月の虹が浮かび
雨あるところに 広がるのをみます
ホッキョクグマの
絶滅と わたしたちのいまが
はかりにかけられています
流れを変えることのできる 腕のよい
配管工をよばんといかんのです
要請してくれませんか
雨水と井戸水と
川の流れでひとつにして
上水をつないでコックをしめる
クロスジョイントのように
すると
川の水だけが流れるんですがね
ここだけの話
水道代はかからないんです
言葉の音
言葉の旋律
そのシナプスを抜きとり
田に植えましょう
歩いていって空をみるより
雲をみるより
田の泥を
水をみましょう
ときは今
それは背中がまがってきたから
スマホのしすぎでうつむいているから
詩なんて書けない苛烈な現実に
言葉をうしなうときにも
ひろってきた芥をより分け
織りあがったじゅうたん
ペットボトルで家を作った人のように
砂漠に命をかけ
井戸を掘る人のように つむぐ
悲しみに凍りついた 瞳をあげると
少しだけ雲がみえる
泥を運び 地上に瓦解した家々に残る
思い出を すくいあげ 空に放つ
虹の向こうにも
雨があがっても
追いかけてくる
悲しみと手を取り合い
すばやくステップをふんで
手をうちならし 口笛をふきます
百年後
わたしたちがいなくなったあとも
風は吹いているでしょうから