見出し画像

⑯ 異形 発電所美術館

異形 発電所美術館

               異形に累々
            異形に螺鈿と楔を
        打ちこむ発電の 寒蝉薄闇から
                    かくれ啼く
                葛におおわれた
                  煉瓦の壁
                  
            階段の下には発火物
           クロームメッキのパイプに
 流れる水音が娘とのぼる私の膝の鳴る音と合わさり

             銀のオブジェと同じ
     クロームのタンブラーのアイスコーヒーに
            結氷をつくっている

           累々と屍が
              空をわたる
                霧の中を
               宙から床に影さして
                 君が立つ地点は
            キリストも同じ三センチ
             の空に 浮かんでいる

              抉り
             まなじりを決する邂逅に
           囁きとざわめきが
           君の鼓動にひたよせ
    
             高麗由来の螺鈿の箱に
             形見をいれた血族が
         おのおのの作法で弔っている
             葬送の未来へ

         スチレンフォームのザムザは
               おもむろに肥えゆく

            未だ見ぬ地平のフォルムが
            百年前現出して今を待っていたのだ

                 稜線はパールの輝きの山の尾根となる
      陰々として立ちあがる角の射すものが
           予言にみちた宣託か
            スケッチ帳に
             パウル・クレーの
          スーパーチェスのパステルで
           娘は 塗りはじめる

        立つときにまた膝が鳴る
      長い階段を下るとき
これが夏休みねと娘はいう

古びた混凝土の衝撃にあいづちをうつ

ああこれが私たちのなつやすみだ

いいなと思ったら応援しよう!