21鐘を撞く
鐘を撞く
言のはの すべり出す 門は 肉の襦袢を
かまないように ひらいて とじる
それがもとで 刺されたり いうことを
思いつかなくて 気づかれなかったり
よい馬は 鞭をあてられる 前に走る などという
警句を飾りにした 金のわのなかで 金剛鸚哥はさえずる
ロビーは広大で ラグーンの見えるフロントから
部屋まで 運河を船で フラミンゴのいる 中庭をみながらゆく
海亀の七匹いる人工の湾に 人工の神殿から
滝が流れ落ちる
抽選を テレビであてた
あなたは権利があるから いるかと泳ぐ
いるかはとらえられ
大洋からきりはなされていることに
きづいていない ふりをしている
きりはなされているのは 私たちだ
わたしはテレビのなかの いるかと 海亀をみる
環礁の青い底に 風景がみえる
一段ずつのぼる 踏みしだく 苔むした石段のはてに
庭が しだれ桜の腕をひろげて 天の盃を享け
鐘を撞くために 頭をあおあおと 剃りあげた
ひとりの僧侶が 今 門を あけて 音をしぼり出す
黒い頭輪が 見ているあなたをしめあげてくるほど
ひきしまった朝の空気のなかで
僧侶はからだの 総長の 三つの長さをもつ
撞き木に かかる綱を 瞬時に
たなごころからふところに
しまいこむように 深くとりこみ引きしぼり
身を 三度 よじる 頭部を舵輪として うしろへ
体を折って倒れる手まえまで 体をかたむけ ねじりあげるほどに
つまさきだけを地面に残し その耳に光を あつめているように
見えた刹那 体をたわめ 撞き木にすべての自重をのせて
腕ごとその木にひきずられる寸前に
綱を解き放つ
雲と階段を 海へ 連れていっておくれ
僧侶のよじった半身が 鞭のようにしなってもどり
足先の強靭なふみこみに そのとき
音は ろうとのかたちに
世界をつつみこみ 広がる波になる
奔流となる 胸の血潮のなか