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28 詩篇 「足は眠るとき天をさす」


靴を手に 砂の上を歩いている


足の拇指と ひとさし指のあいだに砂がからみつく

人をささない足のひとさしゆびはなんというのか

考え 考え

砂には まるい石もうもれている

とがった先端をつき出しているのもある


それは痛く 石と石は 

あいだに砂を絡ませうずたかくなり

空は灰色の雲をその上にかけてだまっている


日輪の太陽が 条光を海に投げている

テトラポットの 沖のむこうの能登の

はざまに 水鳥がうかび

血の通わない足指で

水のあいだを無心にかきまわしている


陸と空と海のはざまに私は

足あとをみる

かかと

つちふまず

つまさき

大きな歩幅で

石をまたぎ


流れてくる湧水をわたる

冬の水はぬるく 足を濡らし

あっというまにくるぶしからひざまで浸している

はざまにずっといて

はざまからどこかへむかっている


そこがまたはざまになっている

合わせ鏡の無限のはざまへと

足が向かっている

足のさきのほうからとけていく

雪の結晶に溶けてゆく

鉛の先と枷がつけられた足の指に祝福が与えられ

幸福の王子は

ひとみのサファイアをさしだし

鉛の穴になった 眼でつばめをみる


台座にただ 立つ足のように

尊い犠牲のあしのゆびは 

眠るときに天をさしている 



エフハリスト と ドライバーに別れを告げ

砂浜に立つホテルで

ミケランジェロの眠る サントスピリト教会で

トピアリーのある薔薇の庭園で

たんぽぽとひなげしの咲く 川べりの道で

溶岩の洞窟で

海辺の蔵の土間で

鷗の埋めつくす

春の海空の下で

はざまに


苦さと甘さの

嘲りといつくしみの

はざまに

足の先をむけている

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