あのにおいに、ふれたら
『ストロボ・エッジ』に出てくる主人公・仁菜子の、この台詞が大好きだ。
初めて読んだのは、高校生のころ。
私は自分のロッカーを開放して、みんなが読める本やマンガでいっぱいにしていた。
友人がそこに寄付してくれたのが、『ストロボ・エッジ』だった。
集英社の別冊マーガレットで連載していた作品で、王道の学園青春ラブストーリー。
授業中も夢中で読んでいた。
画像のコマは、その後の恋模様にも関わる大事なシーンの一部なのだけど、私はそれよりも「季節のにおいを感じている人が、私以外にもいるんだ!」と、すごく嬉しかった。
夏の湿気たっぷりのにおいや、冬の空気が凍ったようなにおい。
みんな感じているのものだと思っていたけれど……そういえば、なかなか言葉にする機会はなかった。
「やっぱり、みんな感じていたんだ」
そのことが嬉しかったし、そのささやかさを、こんなにも愛おしくラブストーリーにのせる咲坂先生の心の美しさに感動した。
人は、いろいろな感覚が記憶と結びついていると思うけど、私は特に、においとの結びつきが強いらしい。
食べ物のにおいや、まちなかのにおいにふれると、過去の同じにおいの記憶を扉に、言葉、情景、感情が蘇ってくる。
住宅街に漂うお出汁のにおいや、シャンプーの香り。
あまいゼリーのようなにおいは、なぜだか、小学生の時にゲームにかじりついていた記憶が蘇る。
なかでも、季節と季節のあいだのにおいは独特だと思う。
仁菜子は、秋と冬の間のにおいを言っていたけど、私は春と夏の間のにおいも好き。
特に、夜風がふくと強く感じられて「また夏がくるんだ」とワクワクする。
秋と冬の間のにおいを感じる時は、もちろん仁菜子のこの台詞を思い出す。
授業中、夢中で読んでいた時の感情が、あのにおいにふれると鮮やかに蘇る。
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