ハルの花とハルの思い出 #2
♬色褪せないキミの願い また巡り会うその瞬間に 笑い合えたら
コンビニとかでもたくさん見かけるようになったなぁ。
チョコレートコーナーに並ぶフリーズドライの苺をチョコレートでコーティングしたお菓子を手に取りながら思う。
私の好物は、このフリーズドライの苺をチョコレートでコーティングしたお菓子です。
このお菓子を手に取るたびに、頭の中で思わずかしこまってこう宣言してしまう。だって、あるとき他人から言われて知ったのだ、私の好物がそれだって。クスクスと笑いが漏れそうになるのを堪えながら、レジを済ませ鞄に苺チョコレートを仕舞う。
「先輩!お土産です!これ大好きなんですよね?!」
北海道に行ってきたという後輩にもらった某有名な苺とチョコレートのお菓子が置かれたデスクで、神戸に行ってきたという後輩から、同じく有名だという神戸の苺とチョコレートのお菓子を受け取りつつ、私は途方に暮れそうになった。ありがとう、後で食べるね、と言いながら受け取り、元気よく自分のデスクに帰っていく後輩(神戸に行ってきた方)の後ろ姿が視界から消えるのを待って、苺とチョコレートのそれを並べてみる。
わたし、これ好きだっけ?とりあえず先にもらった北海道のほうを開封しひとつ口に入れてみる。苺とチョコだ、と思う。正直に言うと、好きでも嫌いでもない。少なくとも部署の夏休みシーズンに、夏休み明けの後輩2人から得意げにもらうほどの好物では決してない。
「お、よかったですね。」
そう声をかけてきた同じチームの後輩は、私の顔を見て笑い出した。齧るには硬くツルツルしすぎていたので、一口で放り込んで噛んでみたものの、口の中でうまく溶けずにもごもごしているのだから、さぞ面白い顔をしているのだろう、と自分でも思っていたので腹も立たない。
「わたし、これ好きらしいのよ」
口元を押さえながら聞き取りにくいであろう声でそう言うと、チームの後輩は全て把握したと言わんばかりに頷き、彼の名前を挙げて、そう聞きましたよ、お土産にするならこれあげておけば間違い無いからって。と、この事態の発端を教えてくれた。
「天然炸裂してますね」
「誰と勘違いしたんだろ‥」
口の中で徐々に溶け合うフリーズドライの苺とチョコレート。後輩たちに私の好物(正確に言うと、彼が私の好物だと思い込んでいるもの)を得意げに教えたであろう彼の気持ちも混ざり合って、甘さが増した。
食べ慣れると、美味しいと思うものだなぁ。昼休み、鞄の中から取り出したフリーズドライの苺をチョコレートでコーティングしたお菓子をひとつ摘みながらぼんやりとそう思う。今ではもう口の中で持て余したりはしない。サクサクとした苺と口溶けの良いチョコレートがすぐさま口の中でいいバランスで広がり合う。あのあと。彼本人から貰ったあのときの苺チョコレートほどではないけれど。優しく甘い記憶を呼び起こす、このお菓子は、今となってはたしかに私の大好物なのだろう。
次にもらった時は、心からの笑顔で喜んで受け取ろう。
ハルの花 / 松尾太陽