うたうたいのものがたり #2

昼間から海辺で飲むビール。しかも海外。

初めて行った台湾で、何がどうしてそういうことになったのか。街中も楽しいけれど、ちょっとのんびりしたくなって私たちは発作的に海を目指した。意外に時間がかかり、もう今日は予定通りの行動は出来ないことが海岸に出れる駅に着いた時点で発覚。腹を括って海辺でのんびりするか、一瞬海を見て、急いで街中に戻り慌てて観光するかの2択だ。自分たちの無計画さに馬鹿みたいに笑いながら、癖の強いお土産屋さんと、お世辞にもキレイとは言えないけれどやたらと美味しそうな匂いがする屋台と店舗の中間のような飲食店が並ぶ街を眺め、満場一致で一日中のんびりコースに。

小籠包、えびを炒めたやつ、牛肉ののった麺、空芯菜。そして、信じられないくらい喉越しが軽くて美味しい現地のビール!これはもうめちゃくちゃ美味しい水だわ!あまりにもスイスイと飲めるため、よくわからない褒め言葉を連呼しながら昼前から外で飲むビールは奇跡みたいに美味しい。お腹がいっぱいになると、すぐそこの海までヘラヘラと歩く。抜けるように青い空と太陽の光を反射してきらきらと輝く海。潮風の匂いと、平日のオフシーズンだけあって人気のないビーチにテンションが上がったのか、二人があっという間に靴と靴下を脱ぎ捨てて、浅瀬に裸足で突入した。残されたメンバーで靴下と靴を拾い二人があげる水飛沫を見ながら、心地よく酔っ払った体を思い切って砂浜に横たえてみる。乾いた砂は熱くて気持ちいい。眩しくて目を開けていられないほどの太陽の光を全身で浴びながら、なんか贅沢な時間だなぁ、と思ったことを覚えている。

そして、今。あの時浅瀬に突入していたひとりは、検討に検討を重ねて決定した「ここに置くのが絶対一番カッコいいから!」という位置に家庭用ビールサーバを設置し、満足げにこちらを振り向いた。

「ほら見てこれ!もうここしかないでしょう!」

「はいはい、もう圧倒的正解です。さすがです。」

我ながら雑に褒めると、そんな姿勢の人にはビール飲ませんぞ、と嫌なことを言ってくる。

「私だって出資者ですぅ」

わざと語尾を伸ばしながら言うと、彼はグラスを二つ(とてもお気に入りのペアグラス、飲み口の形が絶妙でビールがより美味しく感じる)取り出し、勝ち誇ったように宣言する。

「そんな姿勢のやつにはビール注いであげませんよ」

勝手に注いで勝手に飲んでなさい。あ、それは嫌。こっちだって嫌だ。こんなかっこよく設置したのにテキトーに褒めただけじゃん。ごめんって、ごめん、超かっこいいと思ってるから!いやもうこれはセルフだわ。

割と本気で必死で謝ると、どうせ勝てないんだから余計なこと言わなきゃいいのに、とニヤニヤしながらふたつのグラスに丁寧にビールを注いでいく。窓からの光でキラキラと光るビールのグラスと、台湾で見た海の光が重なる。

気の合う仲間を集めて、海外で行き当たりばったり大騒ぎしながら飲んだビールも。まさかこんな風に縁が続いていくとは思わなかったこの人と、涼しい部屋で味わうビールも。全身を焼くような熱さの太陽で照らされていた海の輝きも。窓越しの、熱さはなくただ明るい太陽の光に照らされているガラスの輝きも。

懐かしさも、今この瞬間も、そしてこの先の未来も。

どうぞ、の声と共に差し出された美味しそうに輝くビールを受け取り乾杯をする。頭の中で大好きな歌を口ずさみながら、その歌詞に気持ちを託すようにこっそりと願う。

明るい空の下をどこまでも、一緒に歩いて行けますように。

The Brand New Way / 松尾太陽

♬美しい空が輝いている 君と光の中へ



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