体温と、距離と、想い。 #5

優しいんだから。

そこまでしてあげなくてもいいのに!

昔からよく言われる言葉。優しい、とか、してあげる、とかの感覚がよくわからなくて、あやふやに笑ってやり過ごす。

でも、あるとき。

こっちの思考読み切ってますね!すげぇ!でもその損得勘定、自分にも使ったらいいのに!

あ、それです。と思った。わたしは、物事がスムーズに進行するのが好き。辻褄が合うのが好き。そういう状態を作るのが好き。こうやったらうまくいきそうだな、とか、こうやったらあれ解決できそうだな、とか。気持ち的にはドミノで遊ぶような軽い感じ。

他の人のこと、であるのがポイント。自分のことは、自分の意図の影響が大きいから、偶然性が低い気がして少しつまらない。

だから、優しい、とか、ありがとう、とかの言葉は、なんだか、私の中の体感と遠い気がしていつも宙ぶらりんな気持ちで受け取っていた。

だからあのとき。

すげぇ!というシンプルな一言がものすごくど真ん中に刺さって、自分でも信じられないくらい嬉しくなった。すごいでしょ?上手いこと動いたでしょう?そうなの、どうにかしてあげたいっていうより、うまく行くように計算して動くのが好きなの。綺麗にドミノが倒れたでしょう?みたいな。

こんなにも容易く、カチッと当てはまる言葉を投げかけてくれる人がいるなんて、奇跡みたいだと思った。

それ以来。ドミノを並べ、綺麗に倒れる様を楽しく見守っているときに聞こえてくる、優しい、や、ありがとうは、頭の中であの時の「すげぇ!」の一言に変換される。もう直接は聞けないから。自分の内側で響くその確かな声は、私にとってかけがえのない温もりなのだ。

♬胸を占める声が 確かな温もりが 思い出にならないように

体温 / 松尾太陽

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