うたうたいのものがたり #5
♬夜空に瞬く 一つ一つの星には 光る由縁があるから 揺らぐ意味があるから
信号待ちをしながら、歌詞に誘われるように視線を上げる。冬の冷たい空気の中、思っていたよりもたくさんの星が見えたが、星の瞬きまでは見えない。喉が詰まるような感覚がして涙が滲む。
どうして、みんなにはわかるのかな。
友人から、後輩から、先輩からかけられた言葉を思い返す。
いつまでもそうしてたら心配かけちゃうよ。
いつまでも泣いてたら笑われちゃいますよ。
そろそろ元気にならないと悲しませちゃうよ。
ほら、そろそろちゃんとこれからのことを考えないと。
言われた時は、びっくりして涙も出なかった。なんでみんなは、彼の気持ちがわかるんだろう。私にはわからない。彼がいなくなってちょうど6ヶ月が経った。相変わらず、悲しいし、苦しいし、涙は勝手に出てくるし、何も手につかない。でも倒れている彼を見た瞬間から、彼が残したプロジェクトだけは、絶対に完成させないといけないし、絶対に完成させてほしいと思ってることだけはわかった。だから先月まで、それだけは本当にがんばった。無事成功して、おしまい。あとはこの悲しい気持ちと一緒にゆらゆら暮らそうと思って、そうした。
その結果が、この事態だ。
信号が青になり、一歩踏み出す。みんなには彼の気持ちがわかるんだなぁ、と思うと悲しくなった。私は、彼はプロジェクトの成功を見たがっていたこと以外何もわからない。彼が隣にいた時みたいに、笑って泣いて怒って、がんばって一生懸命仕事に取り組んで、楽しんでる私の姿を、彼は見たいのだろうか。もしかしたら、そうかもしれない。
でも。そうじゃないかもしれない。
上手くいかなくて煮詰まっている時、いつも私に手を差し伸べてくれて、一緒に解決して、そんな時いつも言われた言葉。
本当に、俺がいないと何にもできないですもんね!
怒って否定しながらも実は、本当にそうだなぁ、と思っていたし、私が本当は怒っていないことに彼も気がついていた。その通り、私は彼がいないと何もできない。実際今も何もできていない。彼はこんな私を見たら意外に、ほら俺の言う通りだ!と喜ぶんじゃないかしら。
そう考えてみるけど、みんなみたいにそれを言葉にすることはできない。だって、わからないから。言葉にするほど自信がないから。
それに、たしかに彼は人の幸せを願う優しさがあるが、あれで意外に寂しがりなのだ。みんなが日常に戻り、自分の将来を考えるようになっていくのだから、私一人くらい悲しさに沈んだまま、一緒に寄り添っててもいいのではないだろうか。
彼の気持ちを正しく把握している自信に満ちていた様子のみんなの声を上書きするように、歌声の音量を上げる。
間違えているかもしれないけれど。投げやりでも諦めでもなく。あなたがいないとダメだから、ダメなりにやっていくからしばらく待っててね。今はまだ、その気持ちが届くように祈ることしかできないのだから。
♬この僕も 一つ一つの熱情を ミスティックに今燃やす 君にも届くように
libra / 松尾太陽
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