第10回道新スポーツ杯・新井田基信杯全道将棋大会を終えて ∼向かい飛車よ,全てを託した∼
こんばんは。普段は好きな歌手のこと,コナンなどについていろいろ書いています,ヤマヤです。今回は,3月20日に行われた,「第10回道新スポーツ杯・新井田基信杯全道将棋大会」について振り返りたいと思います。備忘録みたいな文章ですし,いつもより専門的な内容なので,興味ある方に読んでいただければ,くらいの感覚で書きます。
まず,どんな大会なのか。そこから行きますか。
新井田基信杯って何?
その昔,北海道に新井田基信さんという方がいました。北海道将棋連盟(現在は日本将棋連盟北海道支部連合会)の常務理事・事務局長を務めておられた方です。若い頃から将棋が強かったそうで,高校・大学だけでなく,一般の大会でも活躍されていたんだとか。そんな新井田さんですが,2010年に48歳の若さで亡くなってしまいます。急性心不全とニュースで報じていたような・・・。北海道の将棋界には欠かせない存在だった新井田さん。そのお名前を冠した大会が,この大会になります。今回で10回目。
では,僕の対局がどんな感じだったのか,振り返りたいと思います。
なお,今回はスイス式トーナメント(簡単に言うとリーグ戦みたいなものです)で行われました。僕が出場したCクラス(優勝者には初段免状が贈呈される)は,4回戦で終わる予定でしたが,22人の参加者がいて,4回戦で優勝者決まらず。優勝決定戦も行われました。
1回戦 向かい飛車
普段の僕は,相手の戦法を見てから作戦を決めるようにしています。相手の手の内を知っていれば,狙い打ちできる分,だいぶ楽ですが,1回戦は初めて対戦する方。様子見で角道を開けて,向かい飛車に構えました。
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細かい所は覚えていませんが,だいたいこんな感じでした。8筋切れてたか定かではないです。いつも通りなら切れているんですけどね。
そんなことはさておき,上の局面から△4二金寄とされ,何を血迷ったのか分かりませんが,▲5八歩と受けました。ビビりすぎ。当然のように飛車を回って,6筋の歩を切って銀を活用され,一気に指しにくくなりました。△5四飛で銀桂交換にもなり,メチャクチャでした。その後・・・
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これも細かいところは覚えていませんが,後手玉を強引に引きずり出した局面。以下△5六桂とされたので▲3五金打以下の即詰みに討ち取りましたが,受けられてたら終わってました。自分からの早い攻めがない反面,相手からは確実な攻めがある。投了やむなしという状態です。なんとか勝てたのは僥倖としか言いようがないです(「僥倖」を使いたいだけ)
2回戦 vs中飛車 2枚銀で対抗!
2回戦は見出しにもある通り,中飛車プレイヤーと対戦しました。実は,北海学園大学将棋部のある方が,今回の大会に参加することを示唆するツイート(?)をしており,その方の対策で,中飛車は前日に少し調べていました。(普段は捌き封じて地下鉄飛車にするので,まともに中飛車対策なんてしないんですけどね)
そんなことはさておき,相手の方も銀を繰り出してきました。
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この局面,当日の朝に確認していた,「ここで桂馬跳ねるんですよ」って局面と全く同じ。当然桂馬跳ねて殴りかかりに行きました。多分黙っていると△6四歩から中央に手厚く来るんで,動くなら今しかない,と。
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なんだかんだで5五で駒が入れ替わり,△5五同飛に▲6六角と打った局面。正直なところ,感触はよくなかった。後手の突破を防ぎ,遠く9三と1一の香車は狙っているものの,なんとなく角そのものが狙われそう。
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香車をぶっ刺して金を吊り上げ,端を狙いました。後手は歩があれば金の前に打って守れる(屋根を作るイメージです)ものの,あいにく歩がない。
ちなみに,金を3段目に動かしたのは,後のある手を狙っています。
お相手の方,たぶん角が邪魔だったのでしょう。△4四角から消しにきました。
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形悪いと判断して,金を寄った局面。決まっているかわかりませんが,ここで爽快な一手があります。僕の次の一手はなんだったでしょう?
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正解は▲6二銀でした。以下放置すれば▲7一角からの詰み。△6二同銀だと▲9三角からバラシて詰み。強力な龍の利きを生かすため,銀を捨てたのです。これが金を吊り上げた効果で(金が5二にいると▲6二銀と捨てられない),スッキリ勝つことができました。
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投了図はこんな感じでした。なんとか2連勝。ここで昼食です。軽食が用意されているらしい。
3回戦 三間飛車
ということで連勝して午後の対局へ。3回戦は,なんと知り合いでした。高校の時に,公民館で何度も対戦したU君。当時U君は小学生,今は中学生です。3年振りくらいの対戦。だいぶ強い。手ごわい相手です。
当初の予定では向かい飛車でしたが,なかなか飛車先を突き越してくれないので(▲7五歩突いても動かず)三間飛車に構えました。…結局突き越すんですけどね。
※向かい飛車は,相手の飛車と同じ縦の列に飛車を移動する戦法。逆襲が目的なので,飛車先の歩をいっぱい伸ばしてくれないと成立しないことが殆どです。
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結局袖飛車にされます。飛車先を切って手持ちにしていたので,薄い7筋を狙って来ました。しかし,こちらの攻撃準備はすでに万全です。あとは発射するだけ。▲4五歩から攻めます。
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▲2五桂と跳ね,銀桂交換。△同桂が上部に薄く,感想戦でもいろいろ考えましたね。△同金上か,もしくは△同金寄か。いずれにせよ,△同桂は3四が薄そう…。以下,先手は飛車を引くスペースを確保するために▲6六角と上がり,後手は7筋の歩を伸ばしてきました。そこで手裏剣のように銀を放り込みます。
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対局中にU君ウッカリしていたようで,意外と痛い。飛車を横に逃げると▲7六飛だし,縦に逃げても▲5二銀成が猛烈に厳しい。角と銀の交換なら,玉はこちらの方が堅いように見えますし,より強く攻めていける。本譜は以下△7四飛としましたが,▲5二銀成 △7五角となり,以下▲同角 △同飛 ▲4四歩と進みます。
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これで完全に筋に入りました。△4二金なら▲同成銀から▲6六角∼▲4三金,△4四同金でも,やはり▲6六角が厳しい。後手は歩切れがつらい。本譜は△4四同金 ▲6六角と進み,先手が金得で指しやすい~有利になりました。ただ,コビンがら空きですし,飛車も思うように使えていないのでまだ気を抜けない展開です。
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その後,角が要所に利いていて,後手からの早い攻めがありません。後手が「銀も渡すのはさすがに・・・」と逃げた局面です。ここで,▲4三歩と打ちました。数手前から狙っていた手です。銀が質駒なので,△4三同金は▲4二金と張り付いて(または▲4一成銀),▲7三角成~▲3一銀があるかなと。結局▲4三歩には△4四角以下,上手く飛車を活用されますが・・・
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金を剥がして,後手陣は風通しがよくなっています。後手の飛車が先手陣に直射して気持ち悪いですが,ここで▲4三歩が痛い。飛車を逃げると▲4二金がうるさい。本譜は△同飛 ▲5四角 △3二銀と辛抱してきましたが,あっさり飛車を奪って攻め続けます。
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金駒がない後手は,角を打って抵抗しますが,外堀から埋めていきます。
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最後は玉を引きずり出して詰み。今回は運よく勝てましたけど,確実にU君,強くなっています。次に会う時はボコられる未来しか見えません。
4回戦 vs中飛車・持久戦模様(?)
ということで,全部勝って4回戦。対局前の時点での全勝者は自分を含めて3人。自分は2勝1敗の方と当たりました。ここで勝てば優勝決定戦が行われることが確実です。残りの全勝者が直接対決ですから。まずは自分が勝たないと,話になりませんから。
本局は対中飛車になりました。相手の方は北海学園大学の将棋部所属(2局目のところでチラッと出てきた方です)。もちろん名前も顔も知ってます。中飛車やることも知っていました。ある程度は勉強して大会に臨みましたが,定跡研究では相手が数枚も上手。ここは定跡手順を外し,力戦で経験の差で押し切りたい。そう考えていました(勉強は一朝一夕ではダメですね)。
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ということで,定跡外しまくった結果角が使えなくなりました。酷いですね。この局面,さらに悪化させる手を指します。▲2三桂です。飛車をずらして,▲3四銀~▲4五銀で,「飛車の利きはスッと通るし,銀は手持ちにできるし最高じゃん」と思っていました。アホです。なんで「座して死を待つ」のみの香と持駒の桂馬を交換するのか。あと,飛車成ってもカラ成りですし,いい理屈はないんですよ。実際この後,大ピンチになります。
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ザっとまとめるとこんな感じ。細かいところは,またハッキリと覚えていませんが,上から香車のロケットで狙われ,横からも飛車と桂馬が…。かなり危ない格好です。
ここから端を攻められます。もう仕方ないです。死に場所求めて空中を彷徨います。
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死に場所を探していたら,脱出に成功しました。▲3一飛と飛車を打ち込んで,100手ぶりくらいに攻めます。
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最後は絶対に捕まらない位置で殴り続け逆転勝ち。将棋部部長の意地を見せることができたかと思います。ただ,勝ったことには勝ったけど,生きた心地が全くしませんでした。得意技の入玉を披露できたのが唯一の収穫。かなり疲れました。
気づいたらこれで4連勝。出来すぎて怖い。優勝決定戦へ
優勝決定戦 向かい飛車 序中盤
奇跡の4連勝。何が起きたのだろう。よくわからないし,とりあえず目の前の対局に集中しよう。そう考えて盤面に没入していった。勝てば初段免状だ。初段は,高校で将棋を再開してからの大きな目標の一つ。
最後の戦い,相手は札幌の将棋会館でもよく対戦したM君。研修会に入り,ぐんぐんと実力を伸ばしている小学生。過去の対戦成績はこちらの全勝。しかし油断は禁物。三間飛車のような慣れない戦法はやめ,幼いころから指している向かい飛車に,全てを託しました。副題の「∼向かい飛車よ,全てを託した∼」はこの対局のことでした。
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桂馬が浮いているのを狙って,▲9五歩と動いた。だが,かなり乱暴だったかもしれない。以下△同歩 ▲9四歩 △同香 ▲9五香に当然△9三歩。香を交換してもなかなか攻められない上に,端が薄い。その結果,迷走し始める。それが下の画像の仕掛けパート2
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普通に怖い。以下角を交換し,△8六歩。やはり怖い。向こうは銀を引けば金銀4枚の堅陣。対してこちらは金銀横並びの2枚だけ(通称金美濃)。心細い。
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▲9一角と打つと,△8一香とされた。これはウッカリしていた。てっきり飛車を逃げるものだとばかり考えていた。これなら端で香交換せずに,▲9三歩で吊り上げる程度にすればよかったか。以下▲6四歩を決めたのも△5二銀のお手伝いみたいな手で,感触はあまりよくない。そして,無理な仕掛けから,ついに爆発してしまいます。
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この局面。▲6九香とやりました。当然バッサリ△4八馬で痺れます。負けたら悔やんでも悔やみきれないだろう。ここから数十手,辛抱です。
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▲8八飛成の粘りに,△7九角が強烈。痛い。取ると寄りそうで取らずに▲5八龍としましたが,以下金を剥がして張り付かれて困った。
優勝決定戦 終盤
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なんだかんだで上部にスルスル脱出。馬を引いた王手に▲2四桂の逆王手。以下▲2二とがあるので先手まだ指せると思ったが,▲2四桂 △同歩 ▲2二と △同金 ▲同桂成 △同玉 ▲2四銀に△2三桂が逆王手の筋を消しつつ,自玉を安全にする一手でピッタリ。こう指されていたら投了していた。後手は攻めながら自陣を固められるのだ。これならせめて銀を打つべきだったかな…
優勝決定戦 最終盤 ∼過去を振り返って∼
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結局,逆王手がかかって逆転。後手が△4二金と弾こうとした局面。ここで数十手前に伸ばした歩が生きてきた。▲6三歩成。これが決め手となりました。悪手と悔やんだ6九の香車も,ここにきて輝いているようにも見えました。
以下,対局中に考えていたことなどを纏めました。いま振り返ってみると,「目の前の将棋に集中しろ」と言いたいですが,その時はそれどころじゃなかったので,大目に見てください。
この前後で,相手のM君,戦意を喪失したのだろうか,着手に覇気が感じられなくなる。普段は短いと感じる秒読みが,まるで永遠のように長く感じる。「あぁ,終局が近いんだな」そう悟った。長かったな。何度大会で負け,将棋から離れようとしただろう。「将棋を続けたいなら,小6までに初段取れ,じゃないと将棋に関するお金は出さない」と親に言われて,何年経っただろう。大会に出るようになったのは震災の前の年。そうか,10年以上前か。小学校どころか,中学も高校も出て,大学も半分終わってしまったな…
多くの人の顔が浮かぶ。朝早くから,時には前日から大会に連れて行ってくれた両親。小学生の頃からお世話になった旭川の将棋関係者の皆さん。大学で用事を済ませてフラッと寄っても,快く対局してくださる小樽の皆さん。優しく将棋のイロハを教えてくれた,今は亡き三浦先生。他にもたくさんの方に支えられてきたんだな。
ああ,ようやく,長年の悲願を達成できそうだ。初段獲得まで,果てしなく続いてきた航海も,もうすぐ終わる。もう少し,あと少し・・・
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もう他の対局は終わっているのだろう。ギャラリーが集まっている。▲5二金を静かに着手。静謐な空気が漂う会場に,対局時計の刻む電子音が鳴り響く。「ピッ」「ピッ」20秒を過ぎた。明らかに優勢な将棋をひっくり返され,どこか無念そうにM君が投了を告げる。
「負けました」
終わりに
まずは,このような状況下で開催・運営をしてくださった北海道支部連合会の皆様,並びに後援の北海道新聞HotMedia様,本当にありがとうございます。
今回は優勝・初段免状獲得という結果を残すことができましたが,自分にとって長年の悲願だった初段も,将棋の道ではまだまだ通過点。これから先の,未来の扉を開く鍵でしかないかもしれません。自身3年2か月ぶりの大会優勝に驕ることなく,次は二段,三段とさらなる高みを目指して頑張っていきたいと思います。まずはBクラスで爪痕を残せるように。初段として恥ずかしくない将棋を指せるように。
実は大会が行われた3月20日,9年前のこの日はGARNET CROWのアルバム「Terminus」発売日。その収録曲に「Maizy」という曲があります。僕の特に好きな曲の一つです。その中にこんな歌詞があります。
あぁ あの日無くそうとした 今を 未だ生きているね
何度も将棋の才能の無さに泣き,悔やみ,逃げ出したくなったことか。まさにこの歌詞が僕の将棋人生(ただのアマチュア将棋指しですが)を表しているような気がします(本来はバラードなんですけど,将棋と僕の関係と見れば,間違った解釈とは言い切れないと思う)。この曲が世に出た日と,大会の日が重なったのは,偶然だったのか,運命だったのか。いろいろと考えてしまいます。
次の大会は恐らく5月の春季学生大会。団体戦でいい結果を残せるように,しっかりと準備をしていきたいと思います。
最後になりますが,大会に携わった全ての方に,心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。