株式会社 アナザースカイ 8
「フルター。フラれたー。」
それ以上でも以下でもない事実をフルタへ伝えた。
同情を得るための装飾や「傷ついてないし」と強がるための気取った歪曲は、彼には通用しない。
通用しない以前にアラタは、フルタにそれをしようと思わない。
したくない。する必要がない。コミュニケーションの質を下げる。労力と時間の無駄遣い。嘘をつきたくない。正直でありたい。本当の自分を伝えたい。フルタといる時の自分を気に入っている。という本当。
それがたとえ微々でも、事実を飾りねじ曲げれば鋭い嗅覚でかぎ分け、しかし責めることをせずただ受け止める男友達であることを、長い年月をかけて紡いだ末にアラタは熟知している。
どうしても拭えぬ懸念はたったひとつ。
フルタは圧倒的に女を見る目がない笑。
大事な場面で嗅覚が働かないことにアラタは気づいているが、それを彼に伝えることはなぜか躊躇いがあった。シンプルに彼を傷つけるような気がした。
真実だけを伝える「フラれたー」のあと、
「でもね。私はフルタみたく、男はしばらくいいやーって、開き直れないかもー。」
思いの外甘い声が自分の耳に届きアラタは、男にフラれたことよりその、自分の声に怯んだ。
友達以上恋人未満。
友達以上恋人未満。
何のためか、誰に対してか。
わからないまま念仏のように唱え目を閉じ、フルタの言葉を待った。
「そか。うん。あのさ。俺いまアラタに会いたい。今からそっち行くわ」
落雷。
月夜の海、大樹の向こうの空。
脳裏からあっさりと消えた。
落雷が髪の毛の全てから足の指の爪の先までを貫いた。
常の「まじかー」や「きたー。安定の笑。にしても早くね」か、もしくは「大丈夫か?」
その辺りを聞くためアラタの耳は準備をしていた。心の底でひっそり控えていた言葉からは、目をそらした。
準備していた想像をはるかに越えた。
その十年選手になった男友達の声、言葉。初めて聞く響きに「これで死ぬなら本望」と、落雷を受けた。
フラれた過去は落雷で焼けた。
みじめな傷心の灰は落雷の熱風に飛ばされた。
聞き慣れた低音は、男の音がした。
聞き慣れたはずの声は、懐かしさを内包しながら初めて聞く男の音を伝えた。
けれど。