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Aさんへ ②

Aさんへ

Aさんこんばんは

先日は心温まるメールをありがとうございました

『Sさんの親指の匂いについて娘さんの感想が気になります(笑)』
とのこと

そのお気持ちお察しします

なにを隠そう私も、また長女もとても気になりました。故、次女にたずねました。以下原文添削の上抜粋してお伝えします

『Fちゃんち(ご近所のお友達です)の水槽の茶色くなったお水と同じようなお水が入った花瓶に活けられっぱなしにされ、のちに枯れ朽ちたお花(ラナンキュラス)の匂いがした。わたしラナンキュラスだいすき。まんまるでおしゃれ。かわいい。』

との趣が深い感想でした

絶妙な匙加減で肯定と否定をミックスさせやんわりと……やんわり芯を貫く表現で母親のだらしなさを指摘したうえで末尾の『まんまるでかわいい。』
無駄に太った私が手にまで脂肪を蓄えまるで肉汁たっぷりのソーセージのような姿をした親指を『まんまるでかわいい。』と
そこにはささやかな労いさえ込められていることが感じられ、そして、なんにせよあなたの親指の匂いは『いいにおい。』であるという着地点にたどり着くその次女の感性を尊く思います

ちなみにその感想を聞いた長女は

『ごめん。なにいってんのかわかんね。』

とのことでした
とてもバランスのよい姉妹であるという事実に至る次第です

Aさん、お体の御加減はいかがでしょうか

お優しいAさんのことですから、きっと、このような類いの質問に『大丈夫です。お気遣いありがとう。』といったお返事を下さるであろうこと、その想像は容易くもありまたわかっていながらこの質問をしてしまう自分の粗末で軽薄な人間性をまざまざと見つめることとなり、ひたすらに恥じるばかりです

さきほど「おからだ」と打ちましたら「御体」が予測変換の5番目あたりに表示されました

ではなぜ私が先ほど「お体」と入力したかと問われれば「御体」になんとも言えぬ堅苦しさを感じたからです

Aさんのお体加減を案ずるとき「御体」のその文字を眺めていますと、堅苦しく仰々しく、(仰々しいを調べてみましたら、大げさ、大層とありました。そのうえ『話を盛っている』との文言も。)その仰々しさを回避するため「お体」と致しました

お体に続く「御加減」にもあたまに「御」がつきますので、Aさんから『その仰々しさには頓着しないの?』とさらに問われれば、Aさん。なんてことはない御加減はおかげんなのかごかげんなのか……わたしの軽薄な教養では判断しかね「御加減」と漢字に逃げた次第です。

漢字に逃げたり、
片仮名に逃げたり、
また、ゆくゆくはひらがなに逃げる場面も出てくるであろうことは、これもまた想像は容易いです

と、ここまでAさんのお体の塩梅を察するその心境を書き連ね、きっとAさんは薄々感じておられることと思います

『ここまでのくだりが充分に仰々しく、大げさ大層で嘘偽りにさえ感じられる盛りすぎなテレビコマーシャルのような気遣いね』
と。ほとほとです

先日、寝しなに女3人枕を並べ読み聞かせをしました

読み聞かせに選んだ書物は

シンデレラ
桃太郎
良寛さま

などではなく「新生綺羅星!脳科学界のニューカマーC先生 × ウッカリさんでもだいじょうぶ!手抜き時短夜ごはんほっこりレシピ!元栄養士Dさん」の対談記事です

シンデレラは以前、暇をもて余した次女から『なにかおはなしして。』との申し出を受けましたとき……、先にAさんにお伝えしなければいけない事実があります

シンデレラを読み聞かせたその日、夕方、学校にてPTA会議があり想定内と言えば想定内のひと悶着がありました。春に行われるPTA会議。からのひと悶着と言えば年度切り替え時に「該当者がいかに困窮した家庭の事情を抱えているかを仰々しく披露し、なんなら、病を抱える臓器名までをも涙ながらにカミングアウトした上で難役免除を願い出たのちに熱い議論が繰り広げられ最終的に地獄のように盛り上がりに欠けるジャンケン大会が催される。」あれです

PTA会議での疲労を夜まで引きずったまま、そのストレスやフラストレーションをシンデレラの継母に憑依させ、原作を身勝手に脚色し私情を不必要に加えてしまった事実。それに言い訳の余地はありません

とにもかくにもシンデレラのお話をひとり何役かで、濁った心血込め、寸劇仕立てにしたところ継母のシンデレラいじめの場面「このドブネズミが!役に立たないったらありゃしない!さっさと床を磨きな!それが終わったらあの子達の髪を結っておあげ!チッ!この役立たずが!」で次女がいよいよ泣き出しました

下唇をワナワナと震わせ、みるみる瞳の雲行きが怪しくなり、小雨となりそして言いました

『おかあさんは……そんなにわたしがにくいの……?わたしのことがきらいなんでしょ!』

ひとつのトラウマが彼女のなかに形成された瞬間です

シンデレラはそのような今思い出しても胸が痛むハプニングがあり、そして、桃太郎はシンプルに『あきた。』、良寛さまは『ちょっとなにいってるのかわからない。』とのことでしたので前述の、綺羅星レシピをウッカリ脳科学する対談記事を読み聞かせに選択したのです

読み始めまして数分の経過……ニューカマーとホッコリさんが
『はじめまして。』
『はじめまして。今日は宜しくお願いします。レシピ拝読しました。妻が生春巻の皮で納豆を包む……でしたっけ?生納豆。あちらのレシピがお気に入りで……。』
と社交的な辞令を繰り広げるくだりでまず長女が、そして、1分とあけず次女があくびをしました

「眠くなった?」

と確認しましたら、

『うん。』

と。そして次女が、頬寄せあう至近距離で私を見つめ
『おかあさんのこえをきいてるとねむくなる。おさけをたくさんのんだつぎのひのひつじさんみたいなこえ。おかあさんのこえきもちいい。だいすき。』

透き通った混沌ともいえる清濁な想いををおりまぜ、しかし、いついかなるときも肯定を忘れない次女の包容力に目頭を熱くしたことは言うまでもありません

ちなみに羊とは、あの、例の夜だけやたら忙しいあの羊さんにかけているのではないかと思われます

なんにせよ眠くなる

かの有名な世界が誇るアニメーション監督E監督がかつて
『人間は真の窮地に追い込まれたとき、眠くなるんです。製作作業が佳境を極め〆切に追われしかし公開日は変えられんという場面でいかんともしがたい眠気に襲われる。あれは人間が本来備えている自己防衛本能。眠ることで目を背けたくなるような厳しい現実から逃避する。自身を守るために。』
いつかAさんにもお伝えしたそのインタビュー記事を思い出しました

長くなりました
Aさん、どうぞご自愛くださいませ

またメールさせていただきます

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