いつも、全部おいしかった。【chapter75】
「きれいだな」
ケーキには色とりどりのフルーツが、余白なく、ほぼ白を埋め尽くすほどに、ふんだんに飾られていた。
純白、赤、黄色、橙色、緑色の濃淡、紫色。銀色の小さな粒。うまそうだ、ありがとうと伝える前にリョウは「きれい」と呟いた。だから、結果ありがとうは言いそびれた。
ロウソクがなくて正解だ、真っ白な雲につくった花壇のようなこれに、ろうそくで穴をあけるのは惜しいように思う。フォークの穴さえも。
コーヒーのカップが二つ、デザートフォークが二本、皿が一枚。
「どうぞ」
フォークの柄をリョウに差し出し、
「そのままフォークを刺すのが夢だったんでしょう?」
ソノコは笑った。
「フォークで崩すのもったいないな、きれい」
ソノコはふふっと、柔らかな息を吐く。
「リョウくんらしくないわね、とか言わないわよ。むしろリョウくんらしい感想ね、ありがとう。
他者に対して誠実で不器用で真っ直ぐな正義がある、中身がそっくりよね。表現方法と伝わり方は二人それぞれ違うけれど。
タカシくんを好きだと思う気持ちを、タカシくんに対する後悔の気持ちを忘れることができない。そもそも、忘れるべきなのか忘れずにいるべきなのか、それさえわからない。いっそ、好きな気持ちは錯覚だったと思えたら楽だろう。私の気持ちを知りたい。私との出会いを運命だと信じたい。ビンゴ?」
コーヒーカップからふわりと立ち上る湯気、その向こうのソノコ。目の際のほくろは泣き顔より笑顔に似合う。と、リョウは、新しく迎える年になにかを願う大晦日の夜のような気持ちに包まれながら、しみじみと思う。
ソノコの笑顔が優しいからほっとする、ほっとしたら嘘がつけなくなるのは必然なのだと思う。
「ビンゴ、オールビンゴ」
ソノコの勘の良さは、知能の高さではなく思い遣りだと思う。思い遣る努力を怠らない、積み重ねた努力の賜物だと思う。
いつくるかわからない強運を、アンテナと首を長くして待つのも良い。「二十年に一度の好運気の到来!」と叫ぶ占いを信じるのも良い。けれど、笑い飛ばせる程度のささやかな努力を積み重ねればなんとかなることもあるということ。ソノコが見せてくれるその希望を、なにより信じたくなる。