株式会社 アナザースカイ 14
「アラタさん。
大丈夫ですよ。ちゃんと拝聴しております。
そんなに何回も謝って頂かなくて大丈夫。大丈夫ですよ。
アラタさん。
少しだけ、ほんの少しだけお話させていただいても宜しいですか?」
アラタは、自身を「性格がいい」と他者から評されることが多いと思う。「優しい」「温かい」
「あんたって不思議な人。
あんたと話してると、気づいたら秘密にしてた気持ちを吐き出しちゃってるのよ。
何かあったときに、あー、アラターって、聞いて欲しいって、真っ先にあんたの顔が浮かぶの。
こわい女ねー。
人の心を開かせる才能秀逸な。あー、
才能なんて失礼よね、ごめんごめん。
そうじゃない。
あんたは愛のひと。
あんたの主要成分愛よね。嫁にほしーわねー。」
「男っぷりがいい」「ほっとする」「元気になる」「相手本意もいいけど、もう少し自分を大切にしなさいよね。」
アナザースカイから『お話させていただいても宜しいですか?』と問われ、迷うより先に唇が、
「その話、長くなります?」
動いた。
自分の声を聞き届け「終わってるわ、私。」泣きたくなる。
ここまで心は荒んでいるのかと、心ごとアナザースカイのゴミ箱に自分を捨てたくなる。
フワリ。音は聞こえずとも、電話の向こうの空気がフワリと動いたのをアラタの耳が感じた。フワリと柔らかい息を吐き、アナザースカイの「はけ口」は、微笑んだのだ。
口角を微かに上げ、細めた目じりに皺を寄せる。「こっちはKAT-TUNを超越するギリギリ感を抱えているいま。笑う?笑う場面?」しかし、荒んだ感情を丸っと超越する、慈愛の笑みを耳は拒めず受け止める。
「長くなるかもしれませんね。
けれど、そこはアナザースカイ。
きっと、たぶん、もしかしたら、自信はないですけれど。
アラタさんを後悔させません。
少しだけお耳をお借りできれば、アナザースカイとしても、わたくしとしましても、大変幸せに思います。
離婚のお話ではありませんので、どうぞ、お気楽に。
アラタさんのお耳を少し拝借いたしますね。
アナザースカイ。
その意味をアラタさんは御存知ですか。
わたしはあまりテレビを見ませんので存じ上げないのですが、このようなお名前の番組があるそうですね。
弊社の社長は頑なに拒んでいるのですが、わたしは、弊社の社名はそちらからインスパイアされたものでは。と思っている次第でおります。
あ、ちなみにちなみに。
弊社の別名……別名と申しますか、まあ平たく言えば悪口ですけれどね、アラタさまは御存知ですか笑。
その名も、ゴミ箱でございます。
ゴミ箱。
なかなかにエッジの効いた、的を得ている秀逸なネーミングセンスをお持ちのかたがいらっしゃるようですね。ワクワクします。
お客様の心のゴミ、脳内のゴミ、ゴミのような感情、ゴミのような思考。
そちらをグシャグシャっと乱暴に握り潰し、弊社にお捨てになる。
ゴミはなんと言おうと、ゴミですからね。
美しさは皆無ですね。
汚れていれば汚れているほど、
醜ければ醜いほど、
混沌としているなら混沌としたものを、
どこにも使い道のない、ゴミにしかならない感情や思考を、ゴミとして弊社に捨ててくださるのなら、
本望ですね。
本望でございます。お電話の向こうのおひとり、おひとりが、躊躇いなくゴミを捨て、心と頭を空っぽにしてくださるのであれば、
下を向いていたお顔を、フッと上へ向け、空を見上げて下さるのであれば……なんと申しましょうか……そうですね、
結果オーライ。でございます。
空を見上げるで思い出しました。わたしは、話が脱線する傾向にありまして、
大変失礼致しました。
アナザースカイ。
もうひとつの空。
直訳ですと、そのような意味になるかと思います。
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