株式会社アナザースカイ32

運命とも言える16年だか17年前の金曜日。
運命の金曜日が今に繋がるのなら、その運金は

(ゴミ。)

まだ寿命が有り余るタバコをアラタは灰皿に必要以上に押しつけ、消し、真新しい1本に真新しく火をつける。

起点となった日から紡ぎはじめたプロセスをそれに伴うメモリーを、ゴミとするか宝物とするかは、なうが、終着地が『バッドエンド』か『グッドエンド』か。
自分は前者なのだともろ手を上げるのだと、アラタは紫色のようなすみれ色のようなラベリングのドリンク剤を見つめる。

出会った日を運命として、
紆余曲折、切磋琢磨、日進月歩VS旧態依然で今に続くプロセスがあったとして、
閉じた瞳のまぶたの裏側に3月9日的シャイニーなメモリーが浮かぶとして、

『全てゴミ。一切合切ゴミ。』

熱くも冷たくもない、生きながらに死んでいる温度で、平らな気持ちで思う。

『始まりがどうであれプロセスがどうであれ、輝かしい思い出がああでこうでどうであれ。たどり着いた結果がこういう結果である以上、過去に意味はない。価値は、ひとつも』

ビタミンが半日分補えるのであれば、レモンかグレープフルーツ風味か。そのあたりが妥当と思う。
酸味は、胃痛持ちには手が遠退くものの1つだけれど、約8時間の休息の緩やかな入眠を求める人間にしてみれば柑橘系フレーバーはフレッシュなリフレッシュをくれる、眠る前にふさわしいそれだと思う。
今日が最後になってもいいっちゃいい。と口にするのがドリンク剤とは、生きたいのか死にたいのか、混沌を表すのに相応しいと思う。
もて余す混沌。極まる混沌。混迷な混沌。
必然、アラタの口は笑う。
我ながら不謹慎の極みと脳は理解しながら、どうしても口は笑う。
フフッと込み上げる笑い。
クツクツと腹の底から沸き上がり五臓六腑の内側を撫で、喉を通り、口内を素通りし唇を震わせ、いつまでも治る気配のない乾いた口角炎にひびを入れる。きっと鏡をのぞけば血の滲む口角はきちんと上向いている。

情けない
みっともない
白旗

夫に差し出すたった1枚の手札。

ジョーカーの正体は、

始まりから既にあった性格の不一致、積年の不満、始まりから既になかった愛情は今もない、ドメスティック・バイオレンスな夫への恐怖と不信、世間体体裁いい夫婦を三種の神器とする『結婚して子供を産み育てるという平凡で普通な幸せが女の一番の幸せ』とする母親への反旗、運よく自分のもとにきてくれた娘たちへの言い訳、離婚を非とするママ友や世間や社会。

ジョーカーはそのどれでもなく、

選択を間違えた過去の自分への懺悔ではなく、未来の自分のためのはなむけでもなく。

いま、今を生きる自分が、

『人生を失敗』

ひとことに尽きるジョーカー。

降参。
こけた。
土俵を降りる。
自分に負けた。
ぜーんぶ自分が悪い。

泥沼協議の後に離婚を成立させ、近い将来「人生を失敗」したことを正式に成立させる。

それがとても悲しい。


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