株式会社 アナザースカイ 5

アラタは密かに、暑苦しいほどに仕事を語る男が好きだ。
幾度と女友達に、

「アラタ。まじいないから。

戦後の日本がんばって生きまっしょい期、高度成長期、バブル期、氷河期、ゆとりですがなにか期、団塊、団塊ジュニア。

順番合ってる?

そんなね、どんだけの男が仕事に熱意もってたのよって。もってんのよって。絶滅危惧種?ぜーつめーつきーぐしゅ。言えてる?私。
絶滅危惧種。少なくともこの日本にはいないから。淘汰されんのよ。そんな絶滅危惧種もそれを支える女たちもね。

ガラパゴス諸島あたりにでも行ってきなよ。
アラタね、夢語るのもほどほどにしなさいよ。
現実みて。
ダーウィンだって言ってる。
生き残るのは、強いものでも賢いものでもなく、順応性のあるものだって。」

30を迎えたばかりの女友達の、タバコの煙と酒臭い二酸化炭素と共に吐き出される言葉には、確かに説得力があった。けれど、

それは休日。ラブホテルのベッド。または男の自宅で。
1度目のセックスを終え、充足感とリラックスに包まれ、頑強な男の腕に包まれ、

「そう言えばさー、」

を皮切りに始まる、職業理念や仕事に対する一家言。
「うん。」と「そうなのね。」と「それで?」しか相づちを許されぬ、流暢に滑舌よく語られる、仕事への愛。静かに燃える火。

ピロートークとは異なる、声色。
責任、厳しさ、女には知り得ぬ苦労や努力、そして「生きることとは働くこと」と淀みなく言い切れるであろう熱意。

それらを腕の中で聞くことのこの上ない幸せ。
耳を傾けるうちに子守唄になる、甘い問わず語り。
愛する男の頬に唇を当て

「うん。それでそれで?」

と耳を全身にして、息を潜め聞き入ることのこの上ない幸せ。

語るうちに、みるみる男の顔色は明るくなり、声のボリュームがあがる。
目に光が灯る。

男の後ろに景色が見える。

並ぶデスク、または厨房、美容院、病院の白い壁。それぞれの男たちのそれぞれの神聖な戦場。
肩に荷を背負わせる上司、寄りかかる部下、共に歩む同僚。
香るように、男たちの後ろに風景が立ち上る。
汗をかき、恥をかき、帰路には土気色の肌をして生気を欠き満員電車に揺られる男。ぼんやりハンドルを握る男。月を見上げながら自転車を走らせる男。

長い問わず語りの末尾を、

「まー、なんだかんだ言って俺、仕事が好きなんだよな」

と、朗らかに笑う。
そんな男がアラタは好きだ。

『まあまあ保証できる安心・安定。こんな餌って好きでしょ?』

と、コンパの席でぶら下げられる酒のあてを、眼前の酒まずのそれをアラタは、

「すごいですねー」

を連呼し、噛み締める。
『コンビニの安いサキイカの方がまだ旨味がある。』

舌打ちを内包し、すごいですねー。とすてきー。を連呼する自分を「コンビニで買えるサキイカより安い女」と思う。

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