株式会社アナザースカイ4

日々飲み会やコンパの主催を担い、逆に声がかかれば、

『参加寄りの参加。いつ?』

と、とっくに捨てた恥やプライドの再生もないまま二つ返事で女友達に答えた。

数こなした熟練の技で男と女を揃え、相応しい店を押さえ、飲み会用の派手すぎず地味すぎぬメイクや服で鎧をこさえ、滞りなく一杯目のビールで、

「お疲れさまでーす」

と乾杯し、一口目の泡を飲み込み息を吐き出し、初めて顔を合わせる男性メンバーにさらりと視線を巡らせる。

そのようなルーティンを、29歳でサクサクとこなすうち、アラタはある変化に気がついた。

「質が格段に、あからさまに落ちた」

自分のことを正々堂々、熨斗をつけて棚にあげ、冷静に俯瞰し率直に腑に落とした感想だった。

男性メンバーの外見から立ち振舞い、仕事に対する熱量、プライベート。

胸を張って「25歳です」と言っていた頃の飲み会やコンパとは明らかに様子が違う。
アラタは我が身を棚上にあげたまま、

「30になるとはこういうこと」

やけに苦く感じるビールの二口目を飲み込む。

女子高生を連れてきて「おにいさんオアおじさん」と問えば、おじさんの、んにかぶさるスピードで「おじさん!やば!」と答えられるであろう風貌と服装。
なかでも、アラタはスーツに合わせた靴を見つめ愕然とした。
「父が履くやつ」
そんな姿をした、掃きやすさを重視しているであろうビジネスシューズ。

それをしばし眺めアラタは瞬間、毎朝、そのおじさんのような靴を磨く自分を想像する。

ときめきや新鮮な新妻の気持ちとは程遠く、それを磨く自分もまた、後ろに1つで髪を束ね、体のラインが皆無の毛玉だらけの部屋着を身につけているような気がした。
大袈裟ではなく鳥肌が腕を纏い「新婚もなにもあったもんじゃない」とすかさず埃を纏ったビジネスシューズから目をそらした。

二杯目のビールから甘いカクテルに移行する頃には、男性メンバーたちのプライベートについて盛り上がり、休日ごとのゴルフ談義に熱が満ちた。

ゴルフをやらないアラタは、単語の一つ一つが理解できず、理解できないままに笑顔を絶やさず心中で、
「女不要。十分、リア充」
と呟く。
実際、話題に入ろうと口を挟むと、見過ごせない程度の加減で顔を曇らせ「説明面倒くさい」と目が訴えているように思えた。

それとは逆に仕事を語るとき。ゴルフを語っていた時の彼等の熱量はグッと下がる。実際、

「こんなきれいな子達とおいしく飲んでるときに仕事の話もないよね。酒まず」

と、笑う。

それでいて、給与を真綿に包み語るときの声のボリュームと目の強さが、自信と言えなくもないその輝きが偽物と言わないまでも本物の輝きとは異なり、アタラの脳裏には承認欲求の言葉が浮かび消える。

「餌」と書かれた餌にしっぽを振って食いつくと想定されているであろう自分達は、いま、この男たちの目にどうのように写っているのだろうと想像する。
隠しきれぬシワや毛穴をパテで埋めた女を、市販品のトリートメント剤では追いつかぬ低湿度の髪をもつ女を、いきおくれの烙印を片手に、どのような思いで自分達を見つめているのだろうと想像する。

#株式会社アナザースカイ

#株式会社アナザースカイ4


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?