株式会社アナザースカイ3

カットしたひとかけらの肉に溢れる肉汁をからめ、ほおばる。

おいしい。

きっと、それ以外にない。

五臓六腑に染み渡るおいしさ。

本気のシェフと、本気のシェフに全信頼を置くオーナーの、命の欠片がぶちこまれたであろう本気のハンバーグを頬張れば、それはダイレクトに血肉となり、生きる力をバックアップしてくれる。
そんなハンバーグであろうと、アラタは口中を唾液で満タンにし思い馳せる。

オーナー太鼓判の『味変ならぬバースト搭載、秘技メープルシロップがけ』

あまじょっぱいは正義。

ぐうの音はもろ手を挙げて引っ込めるほかない。

正論と正義。

『株式会社 アナザースカイ』の無言に耳を預け、アラタは自分が決断した離婚に至るまでの経緯を思う。

ぐちゃぐちゃと複雑、それでいて突き詰めればとてもシンプルな経緯のように思う。
結婚という道。
他人の男と、夫婦として生きた15年の道。

毛穴ひとつない肌のようにきちんと舗装され、真ん中に白線のひかれた道。

一歩、一歩と歩み進め、ふと15年目に振り返ってみれば、舗装道路に見えた道は、いばらの道で、アラタの裸足の足の裏は血まみれだった。

**

29歳の時、アラタは夫と飲み会で知り合った。

飲み会、コンパ、婚カツパーティー。
結婚というゴールを目指すための出会いの場に、アラタはその頃意欲的に足を運んでいた。

飲み会のファジーさはともかく、コンパと婚カツパーティーの
「要するに男探し。以上」
というタイトで無駄のない開催目的を、この上なく気に入っていた。

#株式会社アナザースカイ

#株式会社アナザースカイ3


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?