株式会社 アナザースカイ 6

かつて熱く仕事を語った男達とは、キッパリ後腐れなく終わった。
様々な職種のカラフルな男性遍歴であるけれど「仕事がデキる」男達の唯一の共通項は「グレーが極めて少ない」であったように思う。

有耶無耶、なし崩し、立ち消え、フェードアウト。

そういった終わり方をした男達ではなかった。
ましてや、友達になることなど絶対になく、男と女として始まり男と女として終わる。
白か黒。
そんな恋愛を経てきた。

(フルタ。元気かな)

男たちがひけらかす、干からびたサキイカをこれ以上の酒まずはないと噛み締めつつ、しかし、無下に扱えぬ自分の安い愚かさを奥歯で噛みながらアラタは、かつての男達ではなく、ごく自然な慕情として男友達の一人を思い浮かべる。

フルタ。彼は、高校生時代の同級生だった。


制服を着ているよりジャージを着ている時間の方が長いバスケットマン。切れ目なく彼女がいた彼は、女といるより男友達とバカのように笑っている光景がしっくりくる男だった。

高校3年の4月、アラタの席の前にフルタがいた。
大学生時代は劇団に所属し、一時期は本気で役者を目指していたという担任は、二人を嬉々として、

「シンカンセン!」

と呼んだ。
180センチ超えの、バスケットボールに明け暮れる猫背を丸め、肩を揺らして笑い、

「くくんな!」

と、低い低い声音で、教室全体に響くボリュームで、しかし誰ひとり不快にさせない天真爛漫さで、言葉とは裏腹な健やかさで、担任教師の軽口をまるっと包む朗らかさで笑うフルタを、その背中を、好ましい気持ちで眺めて過ごした1年間だった。


「くくんな!」のあと、ゆっくり振り返ると、吸い込まれそうにきれいな目を細め、アラタの目を見つめ、
「な?」
と、優しさだけの瞳で微笑みかけた。

目を貫き、心を貫く。
心臓をぎゅっと掴まれる苦しさに思わず息を止める。
そんな微笑みだった。

阿吽の呼吸
シンクロ
シンパシー
わかるわかるー。の連続

妙に息が合い、多くを語らずとも意志疎通が可能な、不思議な関係性であると密かに心を温めていたある日、

「似た者同士かもな」

ぼそりと呟き、温かい笑みでアラタの目を見つめ、
「彼女より楽よねと思うときあんのよ、時々ね」
温かいままの目をそらし言葉を続けた。

日頃、男友達と繰り広げる下品で粗野で、小学生高学年男子が喜んで口にするようなくだらない冗談を吐く、その声色とは違う甘い声。
女が切れないモテる男に有りがちな、無自覚な色気を撒き散らし、ひっそりと呟いたその放課後の、フルタの肩越しに見た風景を、アラタは生涯忘れないだろうと、今も心の一番奥、ひっそり置いている。

「友達以上恋人未満」

うまいこと芯を食った表現があるものだと、アラタはしみじみ思う。
しみじみ思い、ジャージ姿のフルタを思い描けば常温の、黄色のカクテルが微々、甘くなるように感じる。

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