株式会社 アナザースカイ
「はい。アナザースカイです。」
「あ、あの、えーと、はけ口を、お願いしたいん、です、けど……」
「はい。はけ口ですね。ご利用ありがとうございます。
そうしましたら、始めにお名前をちょうだいしますね。
もちろん本名でも、アナザーネームでも、どちらでもご都合の宜しい方をお選び下さいませ。」
「あ、アナザーネー……
あの、アラタです。新しいという字でアラタ、本名です。」
「はい。アラタさま。
とても素敵なお名前ですね。
アラタさんの、きりっと凛々しくもありながら、低い重心の、安定感のある、安心感を与えるお声に……そうですね。例えて言うならば蘭の花のような豪奢な存在感です。とてもお似合いです。かっこいいお名前だなと私は思います。素敵ですね。
ではー、アラタさま。
初めてのご利用で宜しかったでしょうか?
当社ではアナザー会員、スカイ会員等の登録もございますが、その点はまた、ごゆっくりとご検討下さいね。
そうしましたら、本日のコースをお選びいただきますね。
無言コース
相づちコース
同情コース
大丈夫コース
アドバイスコース
など各種ございます。
もちろん、それぞれのコースを組み合わせてのご利用も可能です。
単品でも、セットでも、料金は一律でございます。
いかが致しましょうか?
そうですね。アラタさまは本日、初めてのご利用ですので、ほんの少し説明を付け加えさせていただきますね。
はけ口をご利用になる場面では、やはり、とても疲れていたり、心の底から参っておられたり、また、ほとほと弱りきったお気持ちをお抱えの状況ではないかとお察しいたします。
ですので、なにかを選択する。という行為はとても面倒であり、また、とてもエネルギーを消耗しますね。
たとえば、わたくしの場面になりますけれどもー、
そうですね。たとえばー、コンビニエンスストアーでペットボトルの飲料1本買うのにでさえ、炭酸飲料か、水か、お茶か……またはコーヒーか紅茶か、もしくは多少小腹が空いていることをふまえコーンスープなどにしてみようか。
迷います。
疲れているときというのは、普段であればなにひとつ迷うことなく選択できることも、妙に複雑に捉えてしまったり、躊躇いが生じます。
そもそも自分は本当に喉が渇いているのか?
ただなんとなくフラッと立ち寄っただけのような気もしてきたり、よくよく考えてみれば食欲が湧くような状態ではない。
コーンスープなど一口飲んだところで、お腹がいっぱいになり、とはいえ、コーンの最後の一粒をきちんと取り出したい欲に駆られてみたり。
あちらは最後のコーンがなんとも、少々厄介でございますね。
穴からのぞきこんだ缶の底に、コーンの存在を見つけてしまうと、なんとも悔しいような気持ちになりますから。余計なストレスを増やしかねないですね。
ままあることかと思います。
ですので、アラタさま。
疲れたお気持ちに、選択の負担をおかけしないためにも、どうぞ、なんとなくの直感。なんとなくこれかな?といった、楽なお気持ちでコースをお選び頂けましたら、弊社としましても幸いでございます。
どうぞお気楽に、無言コース、相づちコース、同情コース、大丈夫コース、アドバイスコース。
どちらでもご自由にお選び下さい。」
「わかりました。じゃあ、とりあえず無言コースで。
あの、もし、途中で最後にアドバイスをお願いしたくなったら、アドバイスコースを追加してもいいですか?」
「もちろんです。」
「はい。じゃあ、無言コースお願いします。」
「かしこまりました。
では、アラタさま。無言コース承りました。
どうぞごゆっくり、アラタさまのお心が空っぽになるまで、また、お電話をかけてくださった時のお気持ちより1グラムでも結構ですので、お気持ちが軽くなって楽になった。とアラタさまがお思いになれるまで……
はけ口として、株式会社アナザースカイをどうぞごゆっくりご利用下さい。」