株式会社アナザースカイ39

頭痛のすぐ近く。内耳。
ドドとトーフビーツとケンコの歌声が、基本的に丸い形状だけれど楕円になったり子供が描くまろやかな雫型になったり、子供が好む外国製のジェリービーンズ型になったり。自由な丸さの音で、透明な、音の向こう側に景色が見える透明な音でアラタの内耳を充満する。

アラタの右の目尻から涙は産まれ、数十分前に流した涙の塩道を轍として、スムーズにこめかみを進み、柔らかな髪の波間に溶け込む。
次々と涙は産まれ髪を濡らす。

月夜の海辺で海亀は白く丸い、可愛らしい卵を産む。涙を流して痛みに耐え。
(違うのよ。)
体内に取り込まれた過多の塩分を排出している。
不要なものを捨てているだけ。生きる上で必要な塩分を過剰に摂取したのであれば、体外に排出せねば健康を蝕みいずれ命を蝕む。必要なものが不必要に転ずることを知っている。必要なものが不必要に転じ命を蝕むことを体が知っている。

内耳からドドアンドトーフビーツが遠くなり、ケンコの声が聞こえる。
ケンコの香水がかおり、気づけば頭痛はおろか体のどこも傷まずアラタは(最高か。)微笑む。
(きもちいい。ぬるくてきもちいい。)
暖房のついていない、深夜の、氷室のリビングで床の上に横たわるアラタを、肌触りのよい重みのない透明な毛布が包む。声を聞く。

『反省と後悔と懺悔。ご立派ねあんた。なにさまなの?
そーんな自分ばっかり責めて、私が悪かった。私が至らなかった。全部私のせいて。どんだけMなのよ。
胃痛の次は頭痛で、次はどこを痛めるつもり?
あんた体も心もぼろぼろじゃない。
どこまで自分を痛めつけたら気がすむの?
どこまで自分を痛めつけたら自分を許せるの?


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